D女将と屋台とカルテット


「あ、あったあった。」

鈴仙が何かを見つけて駆け寄る。それは大きな屋台であった。大人6人は裕に入れるくらいの大きさで、暖簾には「八ツ目鰻」と文字が書かれている。

「こんばんはー。」

そう言って鈴仙が暖簾をくぐるとてゐと超時はそれに続く。するとそこにはすでに先客がいるようで、三人の人影が早くも飲み始めていた。

「いらっしゃい。自由に座ってくれて構わないよ。」

女将らしき女性が暖簾をくぐった三人をにこやかに出迎えた。耳の部分に小さな羽根が生えたその女将を見て超時は、

(この人も妖怪、なのかな…。)

そんなことを思いつつ席に座る。すると、それに気づいた隣の先客が超時に話しかけてきた。

「お?見かけない奴だな。永遠亭の奴らと一緒だってことは…そこの仲間か?」

「…っこ、子供!?」

思わず超時は驚きの声をあげた。なにしろ超時に話しかけてきた者はどう見ても幼児で、この場にとてもじゃないが馴染めずにいた。

その人物はむっとした表情を見せ、

「ぬ。子供とは失礼な。これでもアタイはお前よりかは長生きだ。こいつらも一緒さ。」

超時がそれを聞いてまるで信じられないという顔をしたので鈴仙が超時に言う。

「彼女の言っていることは本当ですよ。彼女達のような妖精や、妖怪の方々は容姿で判断してはいけませんよ?あ、女将さん熱燗二つと烏龍茶一つ。」

(そう言われてみるとお嬢様もあの姿で500歳だって言ってたしなぁ…)

「ま。そーゆーこと。そこらの人間の子供とはわけが違うよ。」

そう言って彼女は手にしていたコップの酒を飲み干した。その少女は水色の髪色で頭に青いリボンを付けている。

そして彼女の背中には氷のような羽が付いている。どうやら氷の妖精のようだ。

その隣にいるのは金髪の少女で白と黒の服に身を包み、頭に付けたお札のようなリボンが可愛らしい。

さらにその隣にいたのは緑色の髪で、ショートカットの頭に触角が生えている。三人が三人とも違うため特徴などがよくわかった。

「はい。熱燗二つと烏龍茶。…これはサービスだよ。」

そういって女将が三人に熱燗と烏龍茶をそれぞれ渡して、次いで八ツ目鰻を置いた。

「わぁ…!ありがとう女将さん!」

「いただきまーす。」

鈴仙とてゐはそういってかぶりつく。超時もそれにならって一口食べる。

「あ、これ…すっごくおいしいです…!」

率直な感想を言うと女将は満足そうに一言、

「そいつは良かった。」

そう言うと次の注文に備え仕込みに入ってしまった。

「・・・ところで、さっきもチルノが君に聞いたんだけど、君は永遠亭も関係者なのかい?」

緑色の妖怪が超時に問いかける。

「チルノ?」

「あ、まだ僕たちの名前を言っていなかったね。彼女が氷の妖精のチルノ。こっちの金髪の子がルーミア。んでもって僕は蛍の妖怪のリグル・ナイトバグ。」

リグルと名乗ったその妖怪が簡単に説明をする。

「えと、僕の名前は東雲超時です。紅魔館に身を置いてますが、今は訳あって永遠亭でお手伝いをしています。」

「へぇ、珍しいね・・・人間の、ましてや男の人があそこにいるなんて。」

金髪の少女、ルーミアが言うとリグルが

「・・・まぁ、ここに来る者はみんな訳ありだからね。」

「それじゃあ皆さんも・・・?」

超時がそう言うとチルノが、

「いや、アタイたちはここの女将と友達で、ここで店を開くときにゃ毎回こうやって集まって愚痴をこぼしているんだ。」

「愚痴・・・ですか。」

「そう、愚痴。こないだなんてまだ僕のことを『男の娘』だと勘違いしている人間がいて困ったよ。やっぱりこのズボンがいけないのかな・・・。」

リグルがおもむろに愚痴をこぼす。

(女の子だったのか・・・。てっきり僕も男の子かと思っちゃったな・・・。)

超時がそう申し訳なく思いつつ烏龍茶を飲んで誤魔化していると今度はルーミアが、

「そういや、さっきここに来るときにも『でっかいゴキ○リだぁ!』とか人間に言われてたね。」

「それを言わないでくれよ・・・」

がっくりと肩を落とすリグルに対しルーミアは、

「いやいや、まだそうやって恐れられているならまだいいさ。私なんか『そーなのかー』でキャラ作っているからホント疲れるよ。まったく何が面白いんかねぇ。」

そうしみじみとつぶやく横顔はどこか寂しげであった。

「お二人とも、苦労しているんですね・・・。」

超時がそう言うとリグルとルーミアは頷き、

「いやぁでも、ここにいるチルノに比べたら・・・ねぇ。みんなからバカキャラ扱いされて、頑張ってると思うよ。」

「そうなんですか・・・。」

「いやね、アタイ自身がバカだってのはよくわかるんだ。ただ、それで笑ってくれる人がいればアタイは満足だよ。ただ…」

「ただ?」

「バカ=弱いっていう発想はやめてほしいね・・・アタイの所為でここにいる女将を含めた三人ともバカ扱いされるのはほんとムカツク。
 あーあ、アタイにもさいきょーの強さがあればなぁ・・・誰にも負けない強さがさ。」

そう言って注いでもらった酒をぐいと飲むチルノ。それを見て超時は

「誰にも負けない強さ、ですか・・・。」
(あの時のことを考えると・・・僕もこの世界にいる以上強くなった方がいいのかもしれないな。)

永遠亭に初めて向かったあの日、フランドールと永琳の戦闘の中、自分の無力を痛感したことを思い出す。

「なぁ〜に思いつめたかおをしてるんれすかぁ?」

いきなり超時の左側からがばっと肩を寄せてきた鈴仙が言う。

「ちょ、鈴仙さん!?どんだけ飲んだんですか!?」

超時が見れば鈴仙の前のスペースには空になった熱燗の瓶がたくさん転がっていた。

「占めて13本ってところウサ。酒に弱いの知っていて飲むんだから困っちゃうよねぇ。」

てゐが呆れた声を出す。

「と、とにかくはやく帰らせましょう!女将さん、御代はおいくらですか?」

「それならアタイたちが払っといてやるよ。初対面なのにアタイたちの愚痴を嫌な顔せずに聞いてくれたほんのお礼さ。」

「え、でも・・・。」

「いいから、いいから。僕たちもまだ飲み足りないからね。気にしなくていいよ。」

「またどこかで会えると良いねぇ。」

三人にそう言われ超時は彼女たちの厚意に感謝の言葉を述べ、ベロベロに酔っぱらった鈴仙の肩を持ちつつ屋台を後にした。

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