B 償い
「・・・なるほど。つまりは診療所でお暴れになったフランドールお嬢様の代わりに貴方が薬・薬草の弁償をする、と。」
「…はい。」
「で、数日間の間永遠亭に泊まり込みでバイトする破目になった、と。」
「……はい。」
「どうしてその時貴方は止めに入らなかったの?半吸血鬼の体なら何とかなったでしょうに。」
「うぅ…。」
「……まぁいいわ。此方の仕事の埋め合わせはなんとかしておくから、あっちでしっかり働いてらっしゃい。」
ここは紅魔館のとある一室。超時は眠らされたフランドールとレミリアの薬を持って咲夜にこれまでの経緯を説明していた。
「すみません。僕がもう少ししっかりしていれば…。」
「別に謝ることじゃないわ。主の尻拭いは従者の務めでもあるもの。」
「…恐縮です。」
「お嬢様には私から伝えておくから、貴方はすぐにでも準備に取り掛かりなさい。急ぐのでしょう?」
「えぇ、なるべく早いうちに終わらせちゃいたいと思っています。」
「それなら今日中にでも行くべきね。あそこの人たち、長く一緒にいると面倒だから。」
そう言って咲夜はフランドールを抱え、レミリアの薬が入った紙袋を持って部屋から出て行った。
(僕もこうしちゃいられないな…早く部屋に戻って準備しないと。)
超時は急いで部屋に戻り、大きめのバッグに着替え等必要なものを入れ、そのまま紅魔館を出発した。
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少年執事移動中。。。
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「あ、きたきた。おーい、超時さーん!」
迷いの竹林の入り口で超時を待っていたのは、受付で見たウサギ耳の少女であった。
超時はそれに応じ、挨拶をする。
「わざわざどうもすみません。えぇと・・・」
「鈴仙・優曇華院・イナバです。」
「え?」
「私の名前です。みんな『うどんげ』って呼んでくれてますので、超時さんもそうやって呼んでください。
貴方のことは師匠から聞きました。今日から数日間よろしくお願いしますね!」
「は、はぁ・・・こちらこそ、よろしくお願いします。今回の件はほんとすみませんでした。」
超時が深々と頭を下げると鈴仙は慌てて、
「い、いえいえ、頭を上げてください。私に謝られても・・・ね。」
「ふーん。こいつが新入りかぁー。悪戯しがいがありそうだね。」
鈴仙とは違う声にギョッとして超時が前を向くと鈴仙の後ろにもう一人ウサギの耳を生やした裸足の少女が一人立っていた。
肩まで伸びた黒髪の上に、垂れたウサギの耳を生やしたその少女は、ピンク色の衣装を身にまとい、
ニヤニヤしながら超時を見つめていた。
「えと、このもう一人のウサギさんは一体?」
超時が不思議そうにその少女を見て鈴仙に問いかける。
「この子は因幡てゐ と言ってこの迷いの竹林を管理している妖怪兎です。」
「ま、そーゆーわけだから、よろしく頼むよ。」
手のひらをひらひらと振って超時に挨拶をする彼女に対し、超時も彼女に簡単なあいさつをすると、鈴仙が、
「…それじゃ、そろそろ永遠亭に戻りましょうか。」
こうして、超時は数日の間永遠亭で働くことになった。
「ただいま帰りましたー。」
「ただいまー。」
鈴仙とてゐが診療所の裏にある玄関に入るなりそう言った。すると奥からあの永琳の声が聞こえた。
「お帰り二人ともー。超時君を客間まで案内して頂戴。」
超時がそのまま客間へ通されると、そこには永琳と輝夜が座って鈴仙たちを待っていた。
「おかえりなさい。意外と速かったのね。とりあえず超時はそこに座ってくれるかしら。」
輝夜が目の前の座布団を指さし超時にそう言うと超時はそれに従い、荷物を脇に置いてその座布団に正座して腰を下ろした。
「貴方たちもここに座りなさい。」
今度は永琳が鈴仙とてゐに座るよう促し、全員が座ったところで輝夜が口を開いた。
「・・・とりあえずは、永遠亭にようこそって感じかしらね。貴方には数日間ここで主に家事を中心とした仕事をやってもらうわ。
んで、その働きっぷりをみて貴方の欲しがっている蓬莱の玉の枝をあげるわ。だから、存分にここで働いちゃっていいから。」
「はい。本当に今回の件はすみませんでした。僕がもっとしっかりしていればこんな事態には・・・」
「何言ってるの。こっちからすればいいバイトが手に入って万々歳よ。本当ならずっとここにいて欲しいのだけど、あの吸血鬼の下で働いているんだから後が怖いわ。
とにかく、そんな気に病むことじゃないわよ。ね、永琳。」
「えぇ、それにすべてそちらが悪いわけではないし、そもそも事の発端は私の勘違いでこうなったのだから。」
そう言って永琳は苦笑を浮かべる。
「ま、とにかく貴方には頑張ってもらうから。とりあえずは・・・そうね、あそこの掃除でもやらせましょうか。永琳とうどんげ、てゐも超時に協力してやってね。」
「はい。」
超時が返事をすると輝夜が、
「んじゃ、あとはよろしく頼むわね。」
そう言って立ち上がり自室へと戻っていった。
「掃除の前にその荷物を置きに行きましょうか。うどんげとてゐは先に診察室の掃除に取り掛かっていて頂戴。」
永琳が立ち上がりつつそう言うと、うどんげとてゐは頷いて診察室へと向かって行った。超時も荷物を持って立ち上がった。
「これからここに住み込みで働くにあたって貴方の部屋を用意してあるわ。私についてきて頂戴。」
「あ、ありがとうございます。」
超時はお礼を言って永琳について行った。超時が案内された部屋は紅魔館の洋室とは正反対の全面畳張りの和の作りで、
隣の部屋とは襖一枚で仕切られている。
そんな旅館の一室のような部屋を見て超時は、
「こんな立派な部屋を使わせて頂けるなんて・・・よろしいのですか?」
「いいのいいの、好きなように使ってくれちゃって構わないわ。・・・ただ、そこの襖は開けちゃだめよ?隣の部屋とつながっているから。」
「隣の部屋?」
「この部屋の隣はうどんげの部屋だから・・・この意味、解るわよね?」
「・・・絶対に開けません。」
「ふふ、よろしい。・・・それじゃ、行きましょうか?」
そう言って永琳は診察室へと向かった。超時もそれに続き診察室へと向かう。
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「あ、きたきた。・・・それにしても、これはまた派手にやりましたね師匠。」
先に片付けに取り掛かっていた鈴仙が診察室内に入ってきた永琳と超時に向かって言う。
「あら、実際に壊したのはあの吸血鬼の妹よ?私が自ら壊すわけないじゃない。」
「そりゃそうですけど・・・。」
「とにかく、さっさと片付けちゃいましょう・・・って、てゐがいないわね?」
永琳が診察室を見まわして言う。
「あぁ、てゐならあの後すぐに『迷いの竹林に用があるからあとはよろしくっ』とかなんとか言ってどっか行っちゃいましたよ。」
鈴仙がやれやれとした表情を見せてそう言うと、永琳は肩をすくませて、
「・・・まったく、しょうがない子ね。とりあえず三人で済ませちゃいましょう。」
袖をまくってそう言った。
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少年執事掃除中。。。
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掃除を始めて小一時間が経過し、おおかた片付いたところで永琳が口を開いた。
「うどんげ、あとは私がやっておくから超時君を連れてお風呂の準備に取り掛かって頂戴。」
永琳が鈴仙にそう言うと、彼女は割れた薬の瓶が入った箱を置きながら頷き、
「わかりました。とりあえず、これはここに置いときますね。・・・超時さん、行きましょうか?」
「了解です。・・・それじゃ八意さん、この雑巾は絞っておきますんで・・・。」
「あら、別に下の名前で呼んでも構わないのよ。現に私たちは貴方を下の名で読んでいるのだから。」
「は、はい・・・えと、永琳さん、あとはよろしくお願いします。」
そう言って超時は鈴仙の後に付いて行った。
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「ここが永遠亭のお風呂場になります。外で薪を燃やして温めるタイプなのですが・・・解りますか?」
「はい、この手のものは一度霊夢さんの家で体験済みですから・・・あ。」
そこまで言って超時はあることに気が付いた。
(・・・そういえば霊夢さんにここで数日間働くことになったこと言ってなかったな・・・。痺れを切らして紅魔館まで殴り込みに来たらどうしよう・・・。)
「?・・・どうかしましたか?」
「ふぇ?あ、いや、なんでもないです。」
不思議そうな顔をして超時を覗き込む鈴仙に対し慌てて超時は言い繕うと、
「そ、それで僕はここで何をしたらいいんでしょうか?」
「そうですね・・・とりあえず外に出て火を熾してもらっていいですか?ご覧の通り、もう水は張ってありますからあとは温めるだけなんです。」
「おやすいご用です。」
超時はそう言って外へ移動し窯に手際よく火をつけ、薪をくべていった。
超時が火をくべ始めて間もなく、もうもうと湯気が立ち上る風呂が出来上がった。その間、鈴仙は風呂周りの掃除を受け持った。
「うどんげ、お風呂の準備は・・・って、仕事が早いのね。まぁ、紅魔館で働いている超時君と一緒なら妥当なところかしら。」
しばらくして様子を見に来た永琳が感心してそう言った。
「それじゃ、私は姫にお風呂に入るよう言ってくるから二人は夕食の支度をお願いするわ。超時君、料理はできる?」
「えぇと、一応は。」
超時がそう答えると永琳はニコリと微笑み、
「そう、それならよろしく頼むわね。」
そう言って再び部屋の奥へ消えて行った。
「・・・相変わらず師匠は人使い、いやウサギ使いが荒いんですから・・・」
鈴仙が溜息をつきながら愚痴をこぼすと超時が鈴仙に問いかけた。
「・・・それにしても、どうして鈴仙さんは永琳さんのことを『師匠』なんて呼ぶのですか?何かの師弟関係でも?」
「んー、特にこれと言ってはないのですが・・・話の流れ上、そう呼ばざるを得ないというか・・・」
「そう、なんですか。」
(何か悪いことを聞いちゃったかな・・・。ここの人たちはなんだかよくわからないなぁ・・・。)
「・・・まぁとにかく、夕飯の支度を急ぎましょうか。」
「そう、ですね。変なこと聞いてすみません。」
「いえいえ、お構いなく。」
そんなやり取りの後、二人は夕飯の支度へと取り掛かった。
こうして超時の永遠亭での仕事が始まったのであった。