「・・・風邪ね。」
ここは紅魔館の最上階にあるレミリアの部屋。
今ここには超時、パチュリー、フランドール、咲夜の四人が心配そうな表情をして風邪で寝込んでいるピンクのパジャマ姿のレミリアを見つめていた。
パチュリーが体温計をみてベッドで横になってぐったりとしているレミリアにそう告げた。
「うぅ、吸血鬼とあろうものが・・・情けないわ。」
「まぁ無理も無いでしょ。昨日のあの雨の中ずっと外にいたのだから・・・ケホ。気化しなかったのも超時の行動力と紫のパラソルのおかげよ・・・ねぇ、超時。」
そう言ってパチュリーは体温計を咲夜に渡して超時の方を向く。
「いえ、僕は・・・ただお嬢様が心配で・・・」
超時は少し照れながらごにょごにょと呟いた。
昨晩の雨の一件から一晩が経ち、レミリアは風邪をひいてしまったらしい。
「えぇと、パチュリー様?」
「コホン、何かしら。」
「もしかしてパチュリー様も風邪なのですか・・・?そのマスクは・・・」
超時がパチュリーの付けているマスクを見てそう言った。心なしかパチュリーもマスクの上からでも顔色が悪いことが伺える。
「実を言うと私もちょっと調子が出ないのよ。持病の喘息だろうから、ジッとしていればじきに治る筈なのだけど・・・少し困ったわね。」
「と、言いますと・・・?」
「いつもレミィの薬は私が魔法で調合してあげているのだけど・・・その私がこの状態じゃちょっと厳しいのよ。生憎風邪薬なんてものは持ち合わせていないし・・・ゲホッゲホッ。」
そこまで言ってパチュリーは激しく咳き込み、溜息をつきながらぐったりとした表情で
「・・・少し喋りすぎたわ。今日は一日部屋で休む事にするわね・・・。」
そう言ってパチュリーは重い足取りで部屋を出て行ってしまった。
「薬が無いって・・・どうすれば良いんでしょうか・・・?」
超時は不安そうに咲夜を見つめる。咲夜は体温計を片付けた後、レミリアの額に湿ったタオルをたたんで置いてあげていた。
「そうね・・・あまり気が進まないのだけれど、あそこへ行くしかないわね。」
咲夜は溜息をつきながら言った。
「どこか病院とかあるのですか?」
「まぁ、病院というか・・・診療所ね。あそこの医者は腕はいいのだけれど・・・性格がちょっとね。」
「そこに行けば風邪薬が手に入るのですね?」
「えぇ。ただそこに行くには結構大変なのよね・・・。」
「は、はぁ・・・。」
「それじゃ、フランが超時と一緒に行くよー?」
「っ!・・・フランドールお嬢様!?」
咲夜が驚きの表情を浮かべてフランドールを見つめる。
「しんりょーじょってあの竹林の中にあるあのお屋敷でしょ?それならフランも知ってるから超時と一緒に行くよ!」
(僕が行く事前提なのか・・・まぁはなから僕もそのつもりだったし別にいいんだけど・・・)
「いけません。フランドールお嬢様はご自分の部屋でレミリアお嬢様の病気が移らないようにしていて下さい。」
「えー・・・・・私だってお嬢様の力になりたいのに・・・」
(なんだかんでいってフランドールお嬢様もレミリアお嬢様の事を心配しているんだよな・・・)
しゅんとして肩を落とすフランドールを見て超時がそう思っていると、
「・・・別に構わないわ。」
レミリアはむくりと上半身を起こして言った。
「お嬢様・・・!?」
超時と咲夜が同時に言うと、レミリアは額から落ちたタオルも気にしないで、
「むしろ、フランに行かせたいくらいよ。超時と一緒ならたぶん大丈夫だと思うから。それに、ここに留まるほうが逆に風邪を移してしまうかもしれないわ。」
「・・・それは、まぁ、レミリアお嬢様がそう仰るのなら・・・。」
それを聞いてフランドールは喜びの声をあげる。
「わぁーい!超時と一緒にお出かけだっ☆」
(初めて会ったとき僕を殺そうとしていたのが嘘のようだなぁ・・・)
超時は苦笑を浮かべその様子を見ていると、咲夜が、
「・・・それじゃ、超時。場所はフランドールお嬢様がご存知のようなので具体的な地図は書かないけど・・・頼めるかしら?」
「勿論です。」
(竹林・・・そういえばあのメモにも『迷いの竹林』なんて場所があったけど・・・)
「あの、竹林の中の診療所というのはまさか『迷いの竹林』というところにあるのですかね・・・?」
それを聞いて咲夜は意外そうな顔をして言う。
「あら、超時も知っているのなら話は早いわ。そこの八意永琳(やごころ えいりん)という銀髪の医者を尋ねて薬を貰ってきて頂戴。」
「銀髪のお医者さんですね・・・分かりました。えと、それじゃ僕は準備をするのでこれで失礼します。」
超時が一礼してレミリアの部屋を出ようとすると、レミリアに呼び止められた。
「超時。」
「・・・はい?何でしょう、お嬢様。」
「その、フランが一緒にいるから危険は無いとは思うけれど・・・気を付けて行ってらっしゃい。」
「・・・了解です。それじゃ、失礼します。」
そう言って超時はレミリアの部屋を後にした。
「あ、フランもお出かけの準備しなくちゃ。それじゃ咲夜、お姉さま、行ってきます!」
フランドールもそう言って続けて部屋を出ていった。
「行ってらっしゃいフラン。あまり超時に迷惑かけちゃ駄目よ?」
レミリアの言う事に返事もせずフランドールが一目散に部屋を出ていくと、部屋には咲夜とレミリアの二人が残された。
「さ、お嬢様。あまり起きていられますとお体に障ります。」
「えぇ、分かったわ。」
レミリアはゆっくりと横になり、額にタオルを置く。咲夜は毛布をレミリアにかけながらレミリアに問いかけた。
「・・・あの、お嬢様?一つ質問をしてもよろしいでしょうか・・・?」
「構わないわ。言ってみなさい。」
「はい。単刀直入にお聞きしますが、お嬢様は昨晩どうして自ら命の危険を冒してまであのような行動を・・・?」
その問いかけにレミリアは一度大きくゆっくりと深呼吸をして天井を見つめながら静かに話し出した。
「・・・貴方には話しておくわ。超時がこの幻想郷にやってきた本当の理由を―――」
超時が廊下へ出ると後からすぐにフランドールが出てきた。すると超時に追いついたフランドールが、
「超時!準備ができたらすぐに下のエントランスに来てね!」
「分かりました。すぐに向かいます。」
超時がそう言うとフランドールは満足そうな笑みを浮かべ、廊下を走って下へ続く階段を降りていった。
超時は自室へ戻り、
「えぇと、必要な持ち物は・・・一応このメモと、それから・・・」
そう一人で呟きながらナップサックの中を確認していく。
パチュリーに貰った材料が書かれたメモ、大まかな幻想郷の地図、財布の他に昨日の反省を活かして折りたたみ傘を入れ、
(これだけあれば充分かな・・・?さてと、フランドールお嬢様を待たせている訳にもいかないし、そろそろ行こう。)
超時は防水加工が施された執事服に着替え、自室を出てエントランスへ向かった。
エントランスにはすでにフランドールが支度をして待っており、超時に気付くと走り寄ってきて手にしていた日傘を超時に突きつけて言った。
「遅いよ超時!待ちくたびれちゃったよ。」
「すみませんフランドールお嬢様。それじゃ、行きましょうか。」
そう言って超時はフランドールの手をとるとフランドールは傘を下ろし、不機嫌そうな表情を浮かべて、
「むぅ、超時は今度からフランのとこを呼ぶときは『フラン』で良いよ〜。なんか仰々しいし。」
「あ、はい。フラン・・・お嬢様。」
「・・・・・まぁいっか。さっ、行こ行こー♪」
こうして超時、フランドールの二人は穏やかな陽気の下、永遠亭へと向かうのであった。