(とりあえず、神社に来たんだし、お参りはしておかないとなぁ・・・それにしても、ほんとすごい人の数だな・・・。)

文とはたての二人と別れた超時は参拝客でひしめく本堂の中にいた。
本堂の中には博麗神社と同じように賽銭箱が置かれており、その賽銭箱の奥には何故か麦わら帽子のような像が建てられていた。
その賽銭箱の中に超時はナップサックから取り出した財布の中の小銭を入れて二礼二拍手をした。
そんな簡単ではあるがお参りを済ませた超時は次に脇に設置されている売店へと向かった。

(ひょっとしたら御柱関係のものがあるかもしれない・・・)

そんな事を思いつつ売店に顔をのぞかせると、そこには緑髪で霊夢と同じように腋の露出した巫女服に身を包んだ一人の巫女が店番をしていた。
黄色い瞳を持った彼女は緑色の綺麗なロングヘアーで、その左前の髪の毛には蛇のアクセサリーのようなものを付け、頭に付けた蛙の髪留が印象的だ。
そんな彼女は超時に気が付くと、

「いらっしゃいませ〜。何をお買い求めでしょうか?」

「あ、あの、御柱を・・・」

「あぁ、それでしたら此方に沢山取り揃えていますよ・・・ほら。」

そう言って彼女が差し出したのは御柱の形をしたどうみてもプラスチック製の玩具や、キーホルダーであった。
超時は苦笑しつつ、

「えぇと、グッズとかじゃなくて、本物の方を・・・」

「あぁ、参拝でしたらすぐそこに見えます階段を登っていただくと大きな湖がございますので、そちらの方へ行ってもらえるとよろしいかと思います。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

「足元にお気をつけて下さい。あ、いらっしゃいませー。」

そう言って次の客に接客を始めた彼女を見て超時はそこから離れ、

(あの人がこの神社の巫女さんかぁ・・・霊夢さんとは違っておとなしそうで清楚な感じの人だったなぁ・・・。)

そんな印象を彼女に抱きつつ超時は石造りの階段を登っていった。



少年移動中。。。



超時が辿り着いたその湖は、紅魔館の周りにある霧の湖の半分くらいの大きさで、その湖の所々に御柱と思しき木の柱が建てられ水面から顔をのぞかせている。
湖の畔には小さな祠が月明かりに背を向けて建っており、その前には小ぶりな賽銭箱が設置されている。
境内の明るくて賑やかな雰囲気から一転してここは薄暗く、人間の数もまばらでこの湖の周辺を妙な静寂が包み込んでいた。

(ここが風神の湖かぁ・・・この静けさといい、雰囲気といい、なんだかパワースポットみたいだなぁ・・・)

湖面に映る御柱の影と月の光を見ながらそんな事を思いつつ、超時は小さな祠の前に置かれた賽銭箱に小銭を入れ、二礼二拍手をして参拝した。





すると、超時は不意に何かの気配を察知し、

「・・・?」

何気なく背後を振り向いた時だった。超時の背後に一人の女性が胡坐をかいて空中にふわふわと浮かびながら超時の顔をじっと見つめていた。

「うわぁっ!?」

超時は驚きの声を上げ、バランスを崩して地面に思い切り尻餅をついてしまった。
危うく後ろの小さな賽銭箱にぶつかってしまいそうになり、全身から冷や汗が滲み出た。
その女性は表情一つ変えずにただじっと超時を見つめていた。
月明かりでも充分わかるボリュームのある髪型、胸元に鏡のようなものが付いている服を着て、長めのスカートを履いている。
特に印象的なのは背中に飾られたしめ縄で、新年に飾るあのしめ縄が輪を作り彼女の背にくっついている。
何かとインパクトのあるその女性はただ一言超時に問いかけた。

「君は、外の世界の者だな?」

そう問いかけられた超時はギクリとするも、今更隠すようなことでもないので立ち上がりながら正直に答えた。

「えぇ、確かにそうですが・・・貴方は一体?いきなり現れるなんて驚くじゃないですか。そして、どうして僕が外の世界からやってきた事を?」

そう超時が言うと彼女は何故か苦笑いを浮かべ、

「あー、いや、私のほうからいきなり現れてなんなのだが、人目の付かない場所に行こう。実は今君の目の前にいる私は周りからは見えないよう術を施してあるのでな。つまり君は今周りから見ればいきなり尻餅をつき、独り言を言っているように見えているだろう。」

「・・・え?」

そう言って超時は周囲を見渡す。するとそこにいた数人の人間が超時を気味悪そうに見ていた。
そのことに気付いた超時は赤面し、そそくさと風神の湖を後にした。
彼女は面目なさそうな顔をしてその状態のまま超時の後に付いていった。



石造りの階段を下りる途中、超時は小声で後ろにいるであろう彼女に問いかけた。

「・・・場所を移すといっても、今日はお祭りの最終日とあって大勢の人で賑わっているから、人目につかない場所なんて一体どこに?」

そう問いかけると背後から彼女の声が聞こえた。

「とりあえず、私の家まで案内しよう。そこなら人間もおるまい。」

「はぁ、・・・しかしその、ここから遠いのでしょうか?」

「いやいや、本堂の裏にある階段を下ればすぐだ。」

「そ、そうなんですか・・・」

(裏に家があるって事はこの人はこの神社の関係者なのかな・・・)

そう考えながらも超時は自分の後ろについてくる彼女の指示に従い、神社の裏にある一軒の家屋に着いた。
霊夢の家よりも一回り大きい木造の家屋の前で超時は立ち止まると、後ろから付いてきた彼女が超時の手前で地に降り立った。
彼女は背が高く、こうして並んでみると彼女は超時よりも頭ひとつ分くらい背が高かった。
そんな彼女は超時を見下ろして、

「まずは君に謝らないといけないな。驚かせるつもりは無かったのだが・・・いや、申し訳ない。」

「いえいえ、お気になさらず。僕の方こそ驚いてすみませんでした。・・・えっと、それで貴方は一体?どうして僕が外の世界からやってきた事を?」

「私の名は八坂神奈子。君と同じく我々も外の世界からやってきた身でね。君にはここの人間達とは違う・・・こう、妙な気を感じたんだ。だから君に声をかけさせて貰った。」

「我々?それじゃあ貴方以外にも?」

「あぁ。・・・気付いていなかったのか?私が君に話しかける前から君の後ろを付いていたんだが・・・。」

神奈子のその言葉に超時は後ろを振り向くが誰も居ない。

「・・・さぁ?僕には全く――っ!?」

超時が前を向くと彼女の隣に一人の少女が立っている事に気付いた。
その少女は神奈子の胸ほどの身長で、目玉の付いた大きな帽子をかぶり、目の色と同じ金色の髪の毛は肩まで伸びている。
前に蛙の絵が描かれた紫色の服を着たその少女は苦笑して、

「あははー神奈子にはボクの存在はわかってたのかー。実はね、キミがボクの所に来てからずっと付いていたんだよ?」

「ボクの所と言いますと・・・?それにこの子は?」

超時が疑問を漏らすと神奈子がそれに答える。

「こいつは洩矢諏訪子。本殿にいる山の神だ。あぁ、ちなみに私は農業の神な、こう見えても。」

そう軽々しく言う神奈子に対し超時は戸惑いつつ

「えぇっと、それじゃあ貴方がたはお二人ともここの神様・・・?あ、だから本殿にその帽子の像が・・・!」

神奈子、諏訪子の二人は同時に頷く。

「ところで、君自身の紹介を我々は聞いていないのだが、君はいったい誰なんだ?」

「それ、ボクも聞きたーい!」

神奈子が言うと、諏訪子は元気良く右手を上げその意見に賛同する。
超時はその問いかけに対し自分がこの幻想郷に来た訳と、元の世界に帰るために必要な魔法薬をつくるため幻想郷の各地を訪れている事を説明した。





少年執事説明中。。。





「・・・という訳で、僕が元の世界に戻るためにはこの山の神木、御柱のような木が必要なのです。」

そう超時が説明すると、神奈子が真顔でこう言った。

「大体の経緯はわかったが、一つ疑問がある。」

「疑問、と言いますと・・・?」

超時は首をかしげて恐るおそる尋ねる。

「君はどうしてそんなにもとの世界に戻りたがる?」

「!!」
(いつか誰かからそう聞かれるんじゃないかと思ってずっと考えていたけど・・・僕が元の世界に戻るための理由、か・・・)

そんな事を考えていると不意に諏訪子が語り始めた。

「ボク達神様はね、信仰がないと世界に存在できないの。ボク達の居た世界の人間達は寿命を知り、永遠を信じなくなっちゃって、農業に対しても風雨に対抗する術を手に入れつつあって、山は火山や地殻変動で出来るものだという事を知ったの。人間は科学と情報を信仰し始めちゃって、それと一緒に、ボク達神様に対する信仰心は失われつつあったんだ。そしてボク達の世界では神徳の多い神様でさえ信仰する人間が激減しちゃったんだよ。」

「我々神は信仰を失うと力も失う。神徳も出せなくなる。それは我々神の死に等しい。」

神奈子が諏訪子の後に続いて言った。

「そこで私は信仰心を取り戻す方法を模索し、大きな賭に出る事にした。それは『神社そのものを人間の世界から幻想の物とし、幻想郷で信仰を集める事』だ。現在残された信仰が全て失われ一時的に力を失うが、可能性はその方がある。滅び行く過去の栄光より、私達は可能性のある未来を選択した訳だ。」

「・・・つまり、お二人はお二人の居た元の世界に存在する事が難しくなったからこの幻想郷に来た、と?」

超時のその問いかけに二人は深く頷く。

「そんな過去を持つ私たちの前で、君はもと居た世界に帰りたいと言う。だからその理由を問いたい。君が元の世界に帰りたい理由とは何なんだ?」

超時は暫く黙り込み、重々しい口調で話し始めた。

「僕は・・・ ・  ・   ・   ・    ・     ・     ・   」





《紅魔館》

「レミィ?起きたかしら?」

扉越しにパチュリーの声が聞こえる。

「パチェね。入っていいわよ。」

レミリアがそう答えるとパチュリーは静かにドアを開け部屋へ入ってきた。椅子に座っているレミリアに、

「超時にあのペンダントを渡しておいたわ。あの子、ちゃんと使いこなせているみたいで安心したわ。まったく、素直に自分で渡せばいいのに。」

「べ、別にいいじゃない。そんな重労働でも無いのだし、少しでも貴方は体を動かしたほうがいいのよ。私はパチェの健康を気遣ってあげたのよ?」

「どーだか。」

「とにかく、超時とはこれでいつでも連絡が取れるのね。」

「えぇ、相手が話せない状態で無い限り、ね。」

「いつもありがとう。恩に着るわ。」

「それはお互い様よ。それじゃ、私は部屋に戻るから、彼氏とゆっっっくりとお話しすることね。」

皮肉をこめてパチュリーが言うとレミリアは、

「パチェ、あまり人をからかうと怒るわよ?」

「冗談よ。それじゃ、おやすみなさい。」

クスクスと笑みを浮かべながらパチュリーは退出した。

「おやすみなさい・・・・・はぁ。」

(まったく、いつの間に知られていたのかしら・・・パチェったら。なんだか腑に落ちないけれど、私から言い出したのだし、一度くらい使ってみようかしら・・・)

パチュリーを見送った後レミリアはそんな事を考えつつも胸元のペンダントを外し赤い瞳でそれを見つめる。

[僕は・・・]

(あ、意外とすぐに繋がるのね。なんだか拍子抜けだわ・・・あら?)

[僕は、先程お二人に説明したように事故にあって偶然この世界に流れ着きました。お二人のお気持ちも良く分かりますし、僕自身もここ数日の間でこの世界がすごく好きになって、元の世界に戻るのがもったいないと思うことも時々あります。]

[だったら、どうして君は元の世界に戻りたいんだ?]

(この声は・・・山の神?こんな事を超時に聞いて何のつもりかしら・・・)

レミリアは盗み聞きだと分かっていてもそのままその会話を聞いていた。

[・・・それは、今ここに居る僕という存在が肉体を持たない、というのがまず一点目。パチュリー様の見解だと、時空の歪みの所為で実物に触れることができたり痛みを感じたりする事ができるのですが、実際皆さんの目に見えている僕はただの精神体でしかないのです。だから、元の世界にある僕の体に戻るため、というのが理由の一つです。]

[理由の一つ?・・・それじゃあ他にも理由があるってことなの?]

(もう一つの理由・・・)

レミリアも首をかしげる。

[・・・はい。僕が元の世界に戻りたいもう一つの理由は、お嬢様です。]

[・・・というとそれは紅魔館の紅い悪魔、君の主の事か。しかし、なぜ君が元に世界に帰る事と彼女との間にどんな理由が?]

(超時・・・)

レミリアの表情がくぐもった物に変わる。

[僕がこうしてこの幻想郷になじむ事ができたのは、幻想郷に来て初めて出会った・・・と言うと少し嘘があるのですが、初めて会話をしたお相手がレミリアお嬢様だったのです。それからというもの、お嬢様はなにかとこんな僕のためにこの世界の事を教えていただいたり、半吸血鬼の執事として館において下さったり、心配をして下さったり・・・とこれまで色々な面でサポートを頂きました。・・・執事とはいえ、この幻想郷に転がり込んできたときは何のとり得もない只の人間で、普通ならすぐに追い出しても良いところをこうして執事として雇っていただいてお嬢様にはすごく感謝をしています。・・・そんなお嬢様のためにも、僕が無事で帰ることでお嬢様を安心させてあげたいのです。]

[・・・まるで一人立ちする青年のようなこと言うのだな、君は。]

[あはは・・・ですが、このまま僕がこの世界に居てはいけない存在なのは確かです。]

「違う・・・。」

レミリアはポツリと呟いた。

[!・・・お嬢、様?]

超時がこちらの存在に気付いたらしく、レミリアの名を呼ぶ。一瞬ギョッとしたレミリアは、

「ッ!?・・・あぁもう!」

その刹那、紅魔館最上階の一室で窓ガラスが割れる音がした。





《妖怪の山》

(今、たしかお嬢様の声が聞こえたような・・・気のせい、なのかな・・・?)

超時はペンダントを見つめ微妙な表情を浮かべていると、神奈子が観念したかのように言った。

「・・・そうか。それが、君が元の世界に戻りたい理由か・・・主への感謝の気持ちが良く分かったよ。うむ、君が無事で帰れることを祈って君の望みどおり、これをやろう。」

そう言うと神奈子は自分の背後に手を回し40〜50cm程の角材のようなものを一本取り出した。

「それが、神の力が宿る木、ですか。」

「正確に言うと神様から生える木、かなー。」

「・・・え?それはどういう・・・」

「それは何日か経ったらまた生えてくるんだよねー、人間で言う爪みたいに。」

笑いながらそう言う諏訪子に対し神奈子は、

「あぁ、正直これには苦労が耐えない。切っては生え、切っては生えもう云百年だ。特に今回の祭りのために用意した御柱には苦労したな。肩がものすごく凝った。」

(肩が凝るって・・・御柱の存在って一体・・・)

「そ、それじゃあの湖に建っていた御柱も全て・・・」

「ん?あぁ、全て私から生えた御柱の墓場だ。」

(僕が想像していた神様よりも随分軽いなぁ、この神様達は・・・これなら麓で会った秋の神様達のほうがよっぽど神様らしいや。・・・ちょっと子供っぽかったけど。)

超時が軽いカルチャーショックを受けていると、神奈子がその御柱(?)を差し出しながら、

「何はともあれ、帰れると良いな。君のもといた世界に。」

「え、えぇ。まぁ、はい・・・。」

「・・・どうした?別に汚いものではないぞ?毎日風呂でちゃんと洗ってる。」

「それは洗うんですか!?・・・御柱のイメージがまるっきり違う・・・。」

「世の中、そんなもんさ。君はまだ若い。頑張れ、若者よ。」

「は、はい・・・。」

超時が渋々その御柱を受け取ると不意に諏訪子が思い出したかのように言った。

「・・・あっ!?待って待って!まだボクの力を入れてないよー!」

「あ、そういえばそうだったな。・・・すまないがそれを一度諏訪子に渡してやってくれ。こいつの力を入れて完全な神木の出来上がりだ。」

超時は頷いてそれに応じ、諏訪子に御柱を渡す。
諏訪子は玩具を与えられた子供のような笑顔でそれを受け取り、

「えへへー、それじゃ今からボクの力を入れるけど、さっきまで持っていた重さよりもちょっと重くなるから注意してね?」

そう言って諏訪子は目を瞑り、御柱に右手をかざすと、御柱がほんのりと光を帯びたのが超時の目でも確認できた。
暫くしてその光は消え失せ、諏訪子は一息ついて、

「はい、いっちょあがりっと。はいよ。」

「あ、ありがとうございまs―――っ!?」

諏訪子から御柱を受け取るとそれは先程までとは比べ物にならないくらい密度が増し、手にずしりと来る重さであった。

「こ、これはかなり重くなりましたね・・・。」

「そりゃ、ボクの力をほんのちょびっとだけどその御柱に入れたんだもん。重くなって当然だよー?」

(この人、やっぱりすごい神様なのかも・・・)

そんな事を思いつつ超時はその御柱をナップサックに入れ、お礼を言った。すると諏訪子は照れながら

「いいよいいよ、お礼なんて。キミがボク達に正直に話してくれたんだもの・・・って、んん?」

「どうした?」

神奈子が諏訪子に問いかけると諏訪子は鼻をすんすんいわせて周囲の匂いを嗅ぎ、

「この匂いは・・・もうじき、大雨がくるかも。周りの気圧が急激に低下している・・・うん、間違いない。」

そう諏訪子が言うと神奈子が顔をしかめて、

「むぅ・・・そうか、雨が降っては祭りの終幕を飾る花火が打ち上げられないな。早苗を呼んで観客達に中止を告げさせよう。」

「うん、それが良いよ。あぁ、キミも早めに帰ったほうが良いよー?ボクの天気予報は百発百中なんだから。」

無い胸をはって威張る諏訪子からそう言われ、超時は空を見上げた。
すると先程まで煌々と光を放っていた月が今ではすっぽり雲に隠れ、どんよりとした曇り空となっていた。

「・・・たしかに、この雲行きじゃいつ降り出しても可笑しくないですね・・・。それじゃあ、僕はこの辺で。今日はありがとうございました。」

超時が一礼して神社へと続く階段を登ろうとした矢先、階段の上から声が聞こえた。

「神奈子様ー!諏訪子様ーっ!」

超時が声のする階段の上の方を向くと、階段の上から境内に建てられていた売店にいたあの巫女が石造りでできた階段を二段飛ばして駆け下りて来るのが見えた。

(あの人は売店にいた巫女さん・・・こんな暗くなって階段を駆け下りたら危ないのに・・・)

「お呼びですかー・・・きゃっ!!」

「うわぁっ!!」

次の瞬間、案の定暗闇で足を取られた彼女は派手に転び、超時を巻き込んでそのまま階段の下まで転がり落ちた。

「痛たたたぁ〜・・・・・・あっ!?すすっすみませんっ!」

周りから見れば彼女が超時を押し倒すような形となってしまい、彼女は慌てて超時の上から退く。
超時もドキドキしながらも立ち上がり、体に付いた砂を落としつつ、

「お怪我はありませんか?こんな暗がりに階段を二段飛ばしで駆け下りるなんて・・・。」

そう文句を漏らすと彼女はおどおどしながら、

「怪我は大丈夫です・・・急いでいたもので・・・つい。す、すみませんでしたっ!」

「見せ付けてくれるねぇ早苗。初対面の男を押し倒すなんて大胆だねぇ。」

諏訪子がニヤニヤしながら彼女をからかうと、早苗と呼ばれたその女の子が顔を真っ赤にして、

「か、からかわないで下さい!・・・それで、何の御用でしょうか?お二人とも。」

その問いかけに神奈子が答える。

「あぁ、今宵の祭りなんだが、生憎の天気になりそうなんだ・・・だから祭りの最後を飾る花火は延期すると観客達に伝えておいてくれ。」

それを聞いた早苗は驚きの表情を浮かべ、同時に不満を漏らした。

「えーっ!?お祭りの花火を中止ですかぁ!?雨だったら私の力で風を起こして、雨雲をどかせば中止なんてしなくてすみますよ・・・?」

「いや、こんな天気も天人の気まぐれ。下手に此方が天気を変えて彼女らの機嫌を損ねでもしたら何をしでかすか分からん。またこないだのように大地震でも起こされたらたまったもんじゃないからな。」

苦笑して言う神奈子をみて早苗は口を尖らせつつも納得して、

「それは、まぁ・・・そうですね・・・。その地震の所為で下の神社は壊されたんでしたっけ。」

(そんなことがあったのか・・・霊夢さんは一言も話してくれなかったな。それにしても、神様である神奈子さんがこうも警戒している天人って人たちは一体・・・?)

超時が内心でそんな事を考えていると諏訪子が、

「・・・まぁ、なにはともあれ花火は中止だねー。・・・んじゃあ早苗、頼めるね?」

「わかりました。会場にいる皆さんに伝えてきます。」

そう言って彼女は小走りで神社へと戻っていった。

そんな彼女を見送った諏訪子、神奈子の二人は超時に向き直り、神奈子が

「さて、そろそろ君も帰った方がよい。今日はいい話が聞けた、ありがとう。」

「いえ、そんな・・・僕は正直に申し上げただけですよ。それでは、僕はこれで失礼します。此方こそこんな僕に協力していただき、ありがとうございました。」

そう言うと超時はお辞儀して二人に背を向け階段を登り、神社を出て行った。



「帰れると良いわね、あの子。」

不意に二人の背後に現れた紫が言った。

「うん。あの子は帰れるよ、きっと。ボクが保障するよ。」

「ふふ、頼もしいわね土着神。超時君のサポートをよろしく頼むわよ、二人とも。」

「勿論だ。・・・おぉ、そうだ隙間の妖怪よ。今日はいい酒が入ったんだ、我が家で雨音を肴に一杯どうだ?」

「・・・別にいいわよ。丁度暇していたところだから。・・・っと、その前にちょっとした 仕事 があるけれどね。」

「仕事?・・・まぁすぐに終わるのならいいだろう。」

こうして二人の神と妖怪は家の中へ姿を消した。




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D 御柱祭