超時と文の二人が降り立ったところは守矢神社へと続く参道の一画に設けられた小さな広場だった。

風と共に現れた二人を見て不審そうな顔をする人間達がいるも誰一人声をかけようとせず、幻想郷では良くある事と納得してそのまま進んでいくのであった。

降り立って文は超時に、

「さ、私達も向かいましょう。この緩やかな参道をのぼったら守矢神社です。」

「どうしてそのまま神社に行かなかったのですか?」

超時が文に問いかけると文は苦笑を浮かべて、

「あはは、それには色々と訳がありまして。ささ、行きましょう?」

そう曖昧に言って文は参道を指差す。

そこにはまるで縁日のように参道の左右に屋台が立ち並び「祭り」というに相応しい雰囲気を出していた。

多くの人々が行き交い、沢山の屋台がひしめく参道を上りながら超時は、

「まだ参道なのにこの賑わい・・・。博麗神社とは大違いですね・・・」

そう呟くと、文が苦笑して言う。

「まぁ、こっちのほうが博麗神社より人間の里からは近場ですし、それに今日はお祭りの最終日ってこともありますしねぇ。・・・あぁっと、写真写真。」

どこからかカメラを取り出して参道の様子を撮りまくる文に対して、超時は苦笑しながらも彼女の後をついていく。

(こうゆう所でこうしているとなんだかデートみたいだな・・・)

そんなことを思いつつ超時と文の二人は参道を登っていった。





二人が参道を登り終えるとそこには大勢の人間で賑わう広場に出た。左手には売店のような小屋が設けられ、

その奥には石でできた階段があり、立て札には〈風神の湖〉と記されている。

特に目を惹くのは広場の奥にそびえる立派な本殿だ。

博麗神社にあった本殿よりも一回り以上も大きなそれは悠然とした面持ちでそこに建っている。

その本堂の両サイドに大木でできた4メートル以上はあるであろう大きな柱が二本地面から空へ垂直に立たされていた。

そんな守矢神社を目の当たりにした超時は驚きの声をあげて、

「これは・・・博麗神社に参拝客が行かないのも頷けますね・・・。こんなに立派な神社がこの山にあるなんて・・・。それにしてもすごい人だなぁ。」

感心したように言うと文が、

「これだけ大きな物がこの幻想郷に来たときは本当に驚きました。神社ごとやってくるなんて只事じゃなかったですよ当時は。」

「霊夢さんが言っていたパワーバランスのことですか?」

「そうなんですよ。あの時は妖怪の山中が困惑していましたからね。流石の私達天狗や、にとりさんたちのような河童までも少し戸惑っていましたから。」

でも、と文は続ける。

「実はここ最近もこのようなことが起こったんです。ほら、貴方もそれ位は知っているでしょう?こないだの時空の歪み。アレが起こってから私達天狗の間じゃ『また新しい外界の者がこの幻想郷にやってきたんじゃないか』って警戒をしているんですよ。・・・まぁでも、貴方は紅魔館の人なのであまり知らなくて当然なんですけどね。」

「へ、へぇ。そうだったんですか。」
(それが僕だって事は絶対に言えないよな・・・。)

超時がそう言って愛想笑いを浮かべていると不意に、

〔超時。〕

(ッ!)

例のペンダントからパチュリーの声が聞こえた。

超時が慌てて隠そうとしたが間に合わず、文はそのペンダントに気付き、

「今、そのペンダントから声が・・・。」

「あ、いや、これはその・・・。」

〔超時、元の世界に帰る薬の材料である神木について色々と分かったわよ。〕

「あややや?何なのですか?そのペンダント。それに元の世界って・・・?帰る?その声は紅魔館のパチュリーさんですね?」

ペンダントを興味津々に見つめて話す文にパチュリーもこの場の空気を察し、

〔・・・あ、これはタイミングがまずかったかしら。厄介な奴と一緒にいたものね。〕

「厄介とは失礼な。・・・とにかく、なんだか一大スクープの予感がします・・・!」

目をキラキラさせて言う文に対し、超時は落胆して溜息をついた。

(折角言い繕ってたのに・・・パチュリー様も間が悪いですよ・・・)

そんなことを思いつつ肩を落としていると、パチュリーが、

〔しょうがないわ超時。とりあえずその新聞記者に貴方の真実を話しなさい。余計にごまかすと後が怖いから。ありもしない出任せを新聞に書かれたらたまったもんじゃないわ。〕

超時は渋々頷き、いつの間にかカメラをメモとペンに持ち替えている文に対し、一連の事を話した。






少年執事説明中。。。






「ふむふむ、なるほど。そーゆーことだったのですか。どうりで紅魔館に男性でしかも人間の執事がいるだなんておかしいと思いました。・・・それは全て本当のことなんですね?」

「はい。先程は黙っていてすみませんでした。」

超時が謝ると文は笑顔で、

「いえいえ、お気になさらず。・・・では先日の大きな時空の歪みの原因はあなた本人であると?」

「なんだかそうらしいです。霊夢さんもそのような事を言っていましたから。」

それを聞いて文はほっとした表情で、

「いやぁ良かったよかった♪あの歪みの原因がただの人間で。これは特大スクープです!」

(ただの人間って・・・あぁ、この人は人間じゃないんだっけ。)

「そ、それは何よりです・・・。」

超時が苦笑して答えていると、

〔そろそろ説明しても良いかしら?〕

不意にパチュリーの声が言った。

〔一度しか言わないからしっかり聞いて頂戴。妖怪の山の神木、と言うのはその名の通り妖怪の山にある神の力が宿った聖なる大木の事よ。・・・まぁ砕いて言えばこんなところかしらね。何か質問はあるかしら?〕

「それはつまり、神社の御柱でも大丈夫なのでしょうか?」

〔えぇ、大丈夫だと思うわ。神の力が宿っている木なら御柱でも枝でも何でも都合に合うと思うから。その点は貴方に任せるわ。・・・ところで、今貴方はどこにいるの?〕

「実は、その神社に着いたばかりです。」

〔あら、それなら話は早いわ。夜も更けてきたし、さっさと済ませて帰ってきなさい。レミィがまた心配するだろうから。〕

「了解です。なるべく早く帰ります。」
(また・・・?)

超時は疑問に思いつつも、

「・・・あぁそうだ、パチュリー様。」

〔?何かしら。〕

「妖怪の山で出会った河城にとりさんが近々館の図書館にお邪魔すると言っていました。」

〔あの河童が?なんでまた急に?〕

「なんでも改良のヒントが欲しい、とか。」

〔またろくでもない物でもつくろうとしているのかしら。・・・まぁいいわ、図書館の責任者はこぁだから、私から伝えておくわね。〕

「よろしくお願いします。」

〔くれぐれも神様には失礼のないようにしなさいね。それじゃ。〕

最後は手短にすませてパチュリーは通信をきった。

超時はペンダントをしまい、一息つくと今の会話のほとんどをメモ帳に記入していた文が、

「それにしてもよくできていますね、そのペンダント。貴方が作られたのですか?」

「いえ、これはお嬢様とパチュリー様が僕の材料集めのためにご好意で作っていただいたんです。」

「なるほど、あのお二人が・・・ふむふむ。」

意味深に頷きペンを走らせる文。

その時浮かべた彼女の不敵な笑みに超時は気付く事ができなかった。

「さて、そろそろここらを見物しましょうか、超時さん。」

そう言って文はペンとメモ帳をしまい、超時の手をとる。・・・すると二人の後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「おーっい!あやーっ!」

超時と文の二人はその声に反応して手を離し後ろを振り向くと、一人の少女が小走りで参道を登ってくるのが見えた。

その少女は文と同じような服装で、紫色の烏帽子を被り、首にはチェック柄の携帯電話をぶら下げ、文のショートヘアーと対照的な長い髪はツインテールに結んでいる。

黒と紫のチェック柄のスカートを翻しやってきた彼女も、その容姿から察するに文と同じ烏天狗のようだった。

その少女は二人に追いつくと、超時に一瞥もせず文に向かって、

「大天狗様がお呼びよ。すぐに戻って来いって。・・・なんでも、こないだの時空の歪みについて話があるらしいの。・・・まったく、どうして私がこんな雑用をやんなきゃいけないのよ。」

そう最後に不満を漏らす彼女に対し、文は軽く笑って、

「あはは、貴方にはピッタリだと思いますよ。むしろ念写頼りの新聞を書くよりこっちのほうがお似合いじゃないんですか?・・・それにしても、大天狗様が?・・・んー、もう少しここを取材したかったのですが・・・仕方ありませんねぇ。」

(あんなに取材に執着している文さんがこうもあっさりと・・・?)
「あ、あの・・・。」

超時が疑問に思って文に話しかけると、ここで初めてツインテールの彼女は超時を見て少し驚いた表情を見せた。

「大天狗様って一体・・・?そして、この方は・・・?」

超時が文に問いかけると、彼女も文に詰め寄る。

「こいつはさっきから何なの?人間のくせに文と一緒にいるし、私達に平気で話しかけてくるなんて・・・。」

それを聞いて文はニヤリと笑って、

「へぇ?はたては私が他の男性といるのに嫉妬でもしているのですか?嬉しいですねぇ♪」

「っ!?ば、バカ言ってんじゃないわよ!・・・で?結局こいつは誰なのさ?」

顔を真っ赤にしていう彼女に対しニヤニヤしながら文は答えた。

「この人は東雲超時さん。あの紅魔館で働いているらしいです。」

(・・・らしいです?)

「こ、紅魔館?紅魔館ってあの、吸血鬼のいる・・・?」

えぇ、と頷く文。ツインテールの彼女は顔を引きつらせて、

「へ、へぇ・・・で、でもどうして紅魔館の奴がこんなところに?」

彼女が再び問いかけると文は、

「それは、この御柱祭の観光だそうです。」

それ以上何も言わなかった。

(曖昧に答えているのを見ると、よっぽど僕のことを自分だけのネタにしたいんだなぁ・・・)

そんな事を超時が考えていると文は超時に向き直り、

「次に超時さん。こいつは私と同じ鴉天狗の姫海棠はたて。彼女もまた新聞記者の端くれなのですが、いつも私になにかとつっかかってくる可愛い奴ですよ。」

そう言ってはたてに微笑みかけると、はたてと呼ばれた少女は再び顔をボッと真っ赤に染めて、

「か、可愛いだなんて・・・あ、あんたにそんなこと言われても全っ然嬉しくないんだからねっ!」

そう言ってそっぽを向いてしまう。すると文は笑みを浮かべて超時の耳元で囁く。

「それに加えて非常にからかい甲斐のある奴なんですよ。」

「は、はぁ・・・。」

「そして、大天狗様というのは、私達鴉天狗の長のことで、私達は大天狗様を中心として形成された組織の中、この山で暮らしているんです。」

「そうなんですか・・・。」
(妖怪の社会ってのも結構きっちりしているんだな・・・。大変そう・・・。)

そうしみじみ感じていると、

「・・・という訳で名残惜しいですが、貴方とはここでお別れのようです。次号の文々。新聞を楽しみにしていてくださいね!」

そう言い残し文ははたてをつれて参道を降りていった。彼女達の背中を見送り、

(文々。新聞って確か・・・いつも館に届けられるあの新聞もそんな名前だった気がするけど・・・もしかしてあの人が書いているのかな・・・)

そんな事を思いつつ、人間で賑わう夜の境内へと入っていくのであった。

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