「ゲホゲホッ・・・あ、危うく窒息するところでしたよ!?」

霊夢に引っ張られて妖怪の山まで連れてこられた超時は、咳き込みながら霊夢に抗議する。

「あら、でもこうやって生きているから大丈夫じゃない。吸血鬼なんだから頑丈なんでしょ?」

「だから僕は半分は人間ですって・・・。」

そんなやり取りをしている二人の目の前には超時が博麗神社の階段で見た壮大な妖怪の山が悠然と聳え立っている。
超時達の背後の林を抜けたすぐのところには紅魔館の紅いシルエットが見え、なんとも人間が近づき難い雰囲気をかもし出している場所であった。
が、二人がいる場所のすぐ近くの山道らしき道には「御柱祭開催中」と書かれた立て札が堂々と置かれ、そこにはその山道から山に向かう人間や降りてきた人間達の姿がちらほらと確認できる。
霊夢はそんな人間達の姿を確認したうえで、

「さて、と。さっさと行くわよ。」

超時に向かってそう言うと一人でずんずん山道へ向かっていってしまった。

「あぁ、待ってくださいー。」

超時は慌てて霊夢を追いかけ、隣に並びながら歩きながら霊夢に問いかけた。

「・・・でも、どうして直接守矢神社に行かなかったんですか?そっちのほうが簡単でしたのに・・・。」

「あぁ、そうなんだけど・・・直接空から行くと色々と面倒なのよ。この山には名前の通り妖怪がわんさかいて、特に天狗にでも見つかったら結構厄介なのよね。」

「へぇ・・・。やっぱり妖怪って本当にいるんですね。」

超時がしみじみと頷くと霊夢は更に続ける。

「それだけでもめんどくさいのに、最近になってこの山の頂上にわたしがさっき言った守矢神社っていう神社が、外界から神社もろともやってきた事件があってね。わたしがあの時解決していなかったらこの幻想郷はパワーバランスがおかしくなって大変なことになっていたでしょうよ。・・・まぁ、今回はウチの神社の参拝客を訳のわからないお祭りと称して根こそぎかっさらう気なんだろうけど、そうはいかないわよ。」

「は、はぁ・・・。」
(パチュリー様が以前言っていたその神社は外界から来たものだったのか・・・。)

そんなやり取りを踏まえつつ、超時と霊夢は妖怪の山の山道を登っていった。



少年執事登山中・・・



「・・・それにしても、この辺りって他の場所と違って妙に秋っぽいですね・・・。」

山道を登る途中、超時は周りの景観が段々と秋めいてきた事に不思議に思い霊夢に言った。
周囲の木々のほとんどは紅葉しており、この場所だけ秋がやってきたような感じさえする
気が付けば周囲にあった人間の気配も消え失せ、超時と霊夢の二人だけがその道を歩いていた。

「これはそろそろあいつらが現れるわね・・・。超時、少し下がって歩きなさい。」

「??・・・了解です。」

超時は不思議に思いながらも霊夢と数メートル距離をとった。超時が霊夢の後ろ数メートルを歩きながら、

(もしかして、もうそろそろ守矢神社の人が現れるんじゃ・・・)

そんな事を考えていた矢先、


「『豊符 オヲトシハーベスター』っ!」

黄色い光の弾幕が前方の霊夢に向かって襲い掛かった。

「っ!?霊夢さんっ!」

超時は思わず霊夢の名を呼ぶが、霊夢は落ち着いてその弾幕をひらりひらりとかわした。一通りその弾幕を回避し終わると、霊夢は、

「さっさと現れたらどうなの?奇襲なんて神様も落ちぶれたものね。」

そう誰も居ないところに向かって叫ぶと、どこからともなく焼き芋のような甘い香りが漂い始め、二人の少女が手をつないで現れた。
その二人は双子のように姿かたちが似ている金髪の少女で、片方の少女は金色の瞳で紅葉を模したスカートを履き、金髪の頭には椛の形をした髪飾りを付けている。
もう一人の少女は裸足で、稲の絵が描かれたロングスカートを履いた赤い瞳を持った少女で、頭にはブドウの飾りが付いた帽子を被っている。
そんな帽子を被った少女が霊夢に、

「巫女のくせに神様をバカにするなんて・・・笑止千万、不届き千万!」

「それ、前にも聞いたわよ。・・・っていうかあんた達のほうから仕掛けてきたんでしょうが!下手な幻術まで使って、わたしが分からないとでも思っていたのかしら?・・・まぁここまでくれば他の人間を巻き込まなくてすみそうだけど。」

「う、うるさいうるさいうるさいうるさい!今回もまた私達をいじめにきたんでしょ!?今度はそう簡単にやられないわよ!」

すっかり戦闘モードに入ってしまった帽子をかぶった少女は今にも襲い掛かってきそうだった。しかし霊夢は落ち着いた口調で、

「いじめって・・・人聞きの悪い。・・・これは少し懲らしめといたほうがよさそうね。超時、少し離れていて頂戴。」

「あ、はい。」

そう言われて超時は山道の端のほうへ移動した。それを見て、帽子の少女は何を思ったかにやりと笑って、

「へぇーえ。巫女でも男を連れて歩くのね。意外だわぁ。ね、お姉ちゃん。」

挑発的に霊夢に言い、姉の同意を得ようとした。やはりこの二人の少女は姉妹らしく、彼女はただ困った笑みを浮かべるだけであった。どうやら、姉の方はそれなりに大人びているらしい。
妹の様子をただ見守るだけで戦闘には参加しないようだ。一方、霊夢は妹の挑発的な誘いにも動じず、

「あーはいはい。そうね。」

と軽くあしらうと彼女には逆効果となり、結局

「神様だってのにこの仕打ち!もう我慢ならないわ!『秋符 秋の空と乙女の心』!」

彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。帽子の少女は無数の弾幕を張り、彼女の周囲に散らばる弾幕が一斉に霊夢に襲い掛かった。
・・・しかし、この攻撃にも霊夢は動じず、空中に浮いてゆらりゆらりと体を動かすだけで弾幕をギリギリのところで避け続け、
相手が弾幕を大体撃ち終わってできた隙を見逃さず、

「今度はこっちの番ね。あんたにはこれで充分だわ。『宝符 踊る陰陽玉』っと。」

そう霊夢が言うと彼女の周囲に数個のバスケットボールくらいの大きさの光る陰陽玉が現れた。
霊夢が指示を出すと、それらが素早いバウンドをしながら相手に向かい帽子の少女の腹部に直撃した。

「・・・!!」

帽子の少女は悶絶し地面にあっけなく落下し、それを見た姉が急いで駆け寄り、心配そうな顔をして妹を抱き上げた。
すると、霊夢も地面に降りてきて倒れた帽子の少女に向かって、

「私の勝ちね。とりあえず、秋の味覚でも頂きましょうかしらね?」

「な・・・!?そ、そんな約束なんて・・・していないわよ・・・・・?」

弱々しい声で抗議するその少女を見て超時は、

(なんか、可愛そうだな・・・。この子達は本当に神様なんだろうか・・・?)

そんな疑問を抱いた。霊夢はそんな超時の疑問も知らず、更に帽子の少女に詰め寄る。

「なぁに?くれないって言うのなら今度は本当に消しちゃうわよ?」

もはやどちらが悪か分からない台詞だった。帽子の少女はヒッと恐怖で身を強張らせつつも震える指を地面にかざすと、
指差したその場所に光が生まれ一瞬の後でかご一杯に入ったサツマイモが現れた。超時が驚きで目を丸くしていると霊夢は満足そうににやりと笑って、

「そうそう、これでいいのよこれで。」

よっこらせとそのかごを持ち上げながら言うと、帽子の彼女が、

「む、無念・・・・・ガクッ」

そう言って気絶してしまうと、妹を抱えていた姉は困ったように微笑んだ。

「はぁ・・・こーゆーのがいるから山は面倒なのよね。・・・まぁでもこうしてこんなに秋の味覚を貰った事だし、あながち悪いところじゃないのよね。」

(霊夢さんが無理矢理やったんじゃないですか・・・これじゃどっちが悪者なのかわからないや。)

「・・・でも、それを持って山頂まで行くんですか?」

霊夢の呟きに超時は心で突っ込みつつも霊夢に問いかける。それに霊夢は思い出したように、

「あぁ、そうだったわね・・・でも、守矢神社はもういいわ。このサツマイモをウチの神社で売れば・・・フフフ。」

不敵な笑いを見せる霊夢に超時は力なく苦笑すると、

「と、言うわけでわたしは神社に帰るわ。超時、今日はもういいわ。ありがとう。後は帰って良いわよ。それじゃ。」

言いたいことだけ言って霊夢はかごを抱えて飛び去ってしまった。

(なんという唯我独尊・・・まぁ、あぁいう人だからしょうがないよね。・・・でも)

一人残された超時はやられた帽子の少女とそれを看ている姉を見て、彼女達に近づき恐るおそる話しかける。

「あの・・・大丈夫ですか?」

「・・・・・。」

すると、姉のほうが顔を上げ超時を黙って金色の瞳で見つめる。
両者の間に沈黙が流れ、超時がじれったく思ってもう一度話しかけようとしたとき、不意に姉の口が開いた。

「・・・・・貴方は・・・誰?」

それは秋の空気のように澄んだ、綺麗な声だった。彼女が初めて喋ったので超時が面食らっていると再び彼女が問いかける。

「貴方は、誰?」

ゆっくりとだが、はっきりとした声で言われて超時はしどろもどろに、

「あの、えと・・・僕は東雲 超時。紅魔館の見習い執事です。」

そう自己紹介して彼女と目線をあわせるためにしゃがみこむと、姉は微笑んで、

「私は秋 静葉(あき しずは)。この子は妹の穣子(みのりこ)。普段は二人で幻想郷の秋を司っています。」

「・・・と言いますと、やっぱり貴女方は神様・・・なんですか?」

「はい。ご覧の通り二人とも秋の神、八百万神です。私が紅葉で妹が豊穣の神様です。」

「へぇ〜・・・神様ってもっとこう、神々しいっていうか・・・す、すみません、差し出た事を・・・。」

「良いんですよ。私達はもともと戦闘が得意ではないのですから。」

苦笑する八百万の神に超時も愛想笑いを浮かべる。すると静葉は超時に、

「・・・ところで、貴方はこれからどうするんですか?」

「そう、ですね。霊夢さんは博麗神社に帰ってしまったんですけど、僕は折角なので山頂のお祭りに参加しようと思います。」

それを聴いて静葉は微笑み、

「そうですか。山頂への道はあの茂みを抜けたところから見えるので、あっちに進んで下さい。今日は私の妹が迷惑をかけてしまって・・・すみません。」

ぺこりと頭を下げて謝る静葉に超時は焦って、

「い、いえいえ、顔を上げてください。僕は大丈夫ですから、神様が謝るなんてらしくないですよ?」

「そう、ですか?」

おずおずと顔を上げる静葉に対し超時は微笑んではっきりと、

「はい。神様はもっと堂々としてていいと思います。たとえそれが戦いが弱くたって神様は神様なんですから。」

そう言うと、静葉はクスリと笑い、妹を背負って宙に浮き、

「フフ、そうですね。らしくない、ですか・・・なんだか貴方とはまたどこかで会える気がしますよ。」

「??・・・それは神様の勘って奴ですか?」

超時が立ち上がって静葉を見つめながら問いかけると、静葉は優しい笑みを浮かべ、嬉しそうなウインクをして、

「いいえ、女の勘、と言うものです。では、また・・・。」

そう言うと穣子を背負った静葉は秋の風となって消えた。すると今まで鮮やかな紅葉に彩られていたはずだった超時の周囲の木々の色が深々とした緑色に戻った。
それを見て超時は、

(秋の神様、か・・・。幻想郷ってあんな神様もいるんだなぁ。)

としみじみと考えつつ、静葉に教えられた方向へ茂みを越えながら行くと本当の山道に出た。山道に出たところで超時はあることに気付く。

(あ、そうだ。とりあえず、パチュリー様に結局妖怪の山に行く事に決めた事を連絡しておこう。)

ペンダントを取り出し、パチュリーの事を想う。数秒すると、ペンダントの十字架が紫色に点滅を始め、パチュリーの声が聴こえた。

〔超時?そっちからも連絡する事ができるみたいね、よしよし。どう?神社のお仕事は終わったかしら?〕

「えぇまぁ・・・あの、パチュリー様?先程館で話した妖怪の山のことなんですが・・・。」

超時はパチュリーに妖怪の山のへ行く事を伝えた。するとパチュリーは、

〔霊夢の自分勝手ぶりもひどいわね。まぁ魔理沙ほどじゃないけれど。・・・分かったわ。こっちも妖怪の山の材料について調べておくから、貴方は気をつけて進みなさい。〕

「分かりました。よろしくお願いします。」

超時はそう返事をして、

「ところで、会話を終了させるにはどうすればいいのでしょうか?」

と問いかけると、パチュリーは、

〔それは簡単よ。そのペンダントを一度指で弾けば会話を終了する事ができるわ。あぁそうそう、これは魔理沙から聞いたのだけど、妖怪の山には綺麗な小川と滝があるそうよ。時間があったら行ってみるといいわ。〕

「了解です。また何かあったら連絡しますね。」

〔えぇ。〕

そう言って超時はパチュリーに言われた通りにペンダントを指で軽く弾くとペンダントの点滅が収まり、パチュリーの声も聴こえなくなった。
そのペンダントを服の下にしまうと超時は山頂を目指して山道を歩き始めた。時刻は未の刻を過ぎた頃であった。



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A 襲い掛かる秋