第四章 「とある執事の山登り」

@ 失言

「超時さーん!少しこっちを手伝ってもらっていいですかー?」

「はーい。」

超時がレミリアから休暇宣言を出されて丸二日が経ち、その間に超時は咲夜や美鈴、館の妖精メイド達からも頼られる執事となっていた。
この二日間紅魔館の仕事に専念することによって、当初は超時のことを怖がっていた妖精メイドたちの恐怖心も消え、今となっては彼女達の話題の人となっていた。
超時自身もここでの生活にも慣れ、妖精メイドたちとも親しくなることができ、館の様々な仕事を行えるようになった。
時刻は巳の刻を少しまわった頃、超時が呼ばれた先には二人の妖精メイドが掃除用具を前に困った表情を見せていた。
二人の妖精のうち、メガネをかけた短い黒髪の妖精が超時に申し訳なさそうに言った。

「この掃除用具を私たちと一緒に二階の掃除用具庫へ持っていってくれませんか?」

「一緒に掃除をしていた他の妖精たちは掃除が終わった途端遊びに行ってしまったんですよ。」

もう一人の蒼い長髪の大人びた妖精が続けると、超時は笑みを浮かべて

「勿論です、お易い御用ですよ。」

そう言って雑巾の入った大きめのバケツと、比較的重そうなモップを持った。
二人の妖精メイドは嬉しそうな表情と安堵の笑みを浮かべ、お礼を言って超時に続いた。
二階に向かう途中、メガネの妖精メイドが超時に話しかけた。

「超時さんがここに来てから随分と私たちの仕事が楽になりました。私たち妖精メイドの間ではちょっとした有名人さんみたいな感じですよ。」

「へぇ〜・・・なんだかちょっと照れますね。」

超時が照れくさそうに言うと、今度は蒼髪の妖精メイドが思い出したように、

「そういえば、これも私たちの間で話題になっているんですけど、超時さんは妖怪の山で行われている御柱祭には行ってみました?三日ほど前から開催しているんですが・・・」

「御柱祭?・・・いえ、僕は行ってませんけど、それは一体?」

「簡単に言うと、妖怪の山で行われるお祭りです。細かくは知らないんですけど、すごく賑わうらしいですよ?超時さんももしお時間があったら足を運んでみてはどうですか?」

「そう、ですね。まぁ時間があれば行ってみますよ・・・あ、このバケツはここに置いておけばいいですか?」

超時は二階の掃除用具庫の前で二人の妖精メイドに言った。
二人の妖精メイドは声を揃えてお礼を言うと、超時は照れくさそうにしてその場から立ち去ろうとした。
すると、不意に咲夜が現れてそれに気付いた超時が口を開く前に咲夜は、

「ここにいたのね、超時。貴方に博麗神社の巫女、博麗霊夢から伝言を預かってきたわ。」

「霊夢さんから?」
(そういえば玉葱の件以来、霊夢さんと約束したのに全然行ってなかったなぁ・・・)

「人里に下りたとき偶然彼女と会ってね。『約束を忘れたわけじゃないわよね?』とただ一言。大層ご立腹の様子だったから、早めに対処したほうが良いわ。下手をすると、ここに攻め込んでくる可能性もあるし、色々と面倒だから。」

「そ、そうですね・・・。それじゃあ、早速なんですけど今日にでも行きたいと思うんですが大丈夫でしょうか?」

「えぇ、館の仕事の埋め合わせはしておくから、さっさと行って済ませて来なさい。」

「了解です。ありがとうございます。」

超時はそう言って二人の妖精メイドと咲夜に挨拶をして自室へと向かった。





少年移動中・・・





自室へと戻った超時は執事服から、クローッゼットの中にあった動きやすい服に着替えながら二人の妖精メイドから聞いた御柱祭について考えた。

(妖怪の山、かぁ・・・。名前からして人里にいたような妖怪の人達が住んでいる場所ってことでいいのかな・・・・・・まぁ、とりあえず、神社に行ったら霊夢さんに御柱祭について聞いてみようかな。)

着替えながらそんな事を考えていた超時は洗面所で身だしなみを整え、手ごろなナップサックに必要なものだけをつめて廊下に出た。
すると廊下に出た時にパチュリーとばったり出会った。

「あら超時、こあから聞いたのだけど貴方、妖怪の山に行くんですって?」

「え、えぇと、行くかどうかは決めていませんけど・・・どうしてそれを小悪魔さんが?」

「こあは妖精メイドから聞いたって言ってたわ。」

「そ、そうだったんですか・・・。」

(まだ行くって決めてなかったんだけどなぁ・・・。あの妖精メイドさんたちが勝手に解釈しちゃったのかな。)

「もし山に行くとしたらあの地図も持っていきなさい。あそこにも材料の一つがあったはずだから確認しておいて頂戴。あぁ、それと・・・貴方にはこれを渡しておくわ。」

そう言ってパチュリーは懐からペンダントを一つ取り出して超時に差し出した。
金の鎖が伸びている美しい装飾の中央部に紅い十字架が刻まれている綺麗なものだった。

「は、はぁ。ありがとうございます・・・しかし、これは一体?」

超時はそのペンダントを受け取って不思議そうにそれを見つめながらパチュリーに尋ねた。

「そのペンダントは私とレミィの力を使って作った特別なものよ。普段は装飾及び私とレミィとの連絡手段として使用すればいいわ。」

「連絡手段、ですか?どうしてこれを僕に?」

「それは、貴方がこれから材料集めに幻想郷を飛び回る際に、貴方と連絡が付かないと館にいる私やレミィにとって不安要素の一つなの。それと、ほら。」

そう言ってパチュリーは紫色の長い髪をあげて自分の左耳を超時に見せた。
そこには超時のペンダントと同じデザインのイヤリングが付けられていた。
パチュリーは髪を元に戻しながら、

「形は違うけれど、用途はそのペンダントと同じよ。貴方のものをペンダントにしたのはレミィのアイディアで、レミィのはブローチの形をしているわ。・・・まったく、レミィも自分で渡せばいいのに・・・。とにかく、そのペンダントは無くさないように肌身離さず持っていて頂戴。」

「了解です。どうもありがとうございます。大切にします!」

「そう心がけなさい。・・・まぁ、これはレミィの案で、私はそれに少し協力しただけよ。お礼ならレミィに言いなさい。」

超時が深く頷き、そのペンダントを大事そうに首に掛けて服の下に入れた。

それを確認したパチュリーは改めて超時に聞いた。

「・・・で?その格好からするとこれからやっぱり出かけるみたいじゃない。妖怪の山じゃないとすると一体どこに行こうとしていたのかしら?」

「あぁ、それは・・・」





少年執事説明中・・・





「なるほど、霊夢との約束ね・・・。大変だとは思うけれど、気をつけて行ってらっしゃい。」

パチュリーはそう言って自分の部屋へ向かっていった。

「はい。ありがとうございます。行ってきます。」

そう超時が答えるとパチュリーは超時のほうを振り向かずに手だけを振って自分の部屋に入っていった。
超時はパチュリーを見送った後、

「さて、と。あ、そうそう、地図を持っていかないと。」

そう呟き超時は一度部屋に戻り、ナップサックにパチュリーから貰った地図とメモを入れて改めて部屋を出た。

(霊夢さん怒っているかなぁ・・・とりあえず、行ってみないとな。・・・さて、行きますか!)

一人気合を入れて階段を下りていった。時刻はそろそろ巳の刻の半分を過ぎた頃だった。





少年執事移動中・・・





(空を飛べればこの前のように早く着くのに、徒歩だと結構時間がかかってしまったなぁ。・・・それにしても急な階段だなぁ。)

太陽がほぼ真上に来る頃、超時は博麗神社のある小高い丘の麓に着いた。
神社へ続く階段を登りながらそんな事を考えて、一息つこうとふと後ろを振り向くとそこからは幻想郷のほぼ全体が見渡す事ができた。
階段の上を覆う木々が丁度開け、紅魔館が畔にある霧の湖、慧音と出会った人間の里、
アリスと魔理沙が住んでいる魔法の森など今まで超時が足を踏み入れたことのある場所の他、竹が鬱蒼と生い茂る竹林や、
花畑であろうか、黄色一色に染まっている草原、紅魔館の裏に悠然とそびえる大きな山など、ここから幻想郷にある大まかな地形、場所が確認できた。

「うわぁ・・・!」

その壮大で幻想的な景観に超時が感嘆の声を漏らしていると、それを打ち砕くように頭上から怒声が降りかかってきた。

「くぉら超時!あんたそんなとこで何ぼさっとしてんのよ!早く上がってきなさいよ!」

超時が慌てて振り向くと階段の一番上に仁王立ちで立っている博麗霊夢がいた。
声の主はどうやら彼女らしく、博麗神社の入り口の鳥居の下で腕組みをして、いかにも怒っています、といった表情をしていた。

「す、すみません霊夢さん!すぐ行きます!」

そう言って超時は階段を駆け上がり、それを霊夢は苛々と待っていた。
超時が霊夢のところまでたどり着くと霊夢は、

「っ遅い!一体今まで何をやっていたの!?まさか忘れてたとは言わせないわよ。」

「すみません・・・今日は何でも手伝いますから。」

「今日ってもうお昼じゃない。・・・とにかくお賽銭を入れて、話はそれからよ。」

「わ、分かりました。」

超時は申し訳なさそうに彼女の横を歩いて通り過ぎる。
賽銭箱の前でナップサックから財布を取り出すと、そこから小銭を取り出し、賽銭箱へ投げ入れた。
二礼ニ拍手をしてお参りをしている超時を見て、いつの間にか超時の隣に来ていた霊夢が、

「あんた、今いくら入れたの?」

ドスの利いた声で超時に問いかけた。

「え、五円玉ですけど・・・。」

「はぁ?あんた本気で言ってんの?あんたがこの世界に来る前にここに来た人間も『御縁があるからー』とか言って五円玉を入れてたけどあんたもその同類なわけ?札入れなさいよ札。このご時世五円玉でどうにかなるなんて思っていたら大間違いよ!」

声高らかに言う霊夢に圧倒された超時は半ばカツ上げ気味だと思いつつも再び財布を取り出し、紙幣を何枚か賽銭箱に投げ入れた。
それを見た霊夢は今までの不機嫌さから一変、満足した笑みを見せて、

「うんうん、よろしい。これであんたにも幸せが訪れるわよ、きっと。・・・さて、と、とりあえずあんたには境内の掃除でもしてもらおうかな。箒なら神社の右奥にある蔵に竹箒が入っているからそれを使って頂戴。わたしは家にいるから、何かあったら呼びなさい。それじゃ、よろしくね。」

そう言って霊夢は神社の奥へ歩いていってしまった。
超時は霊夢の後姿を見送り、ナップサックを背負いなおして神社の右奥へ歩いていった。
すると、霊夢が言っていた通り大きな蔵がそこに建っていた。

(この中だな・・・昔から掃除は嫌いじゃないからなんとかなるかな、っと。)

超時が蔵の扉に手をかけ引っ張ると難なく扉は開いた。
その蔵に入ってすぐ手前に竹箒があったので超時はそれを手に取り、神社の境内の掃除を始めた。





少年執事掃除中・・・





数十分経って超時は境内のほぼ全体の掃除をやり終えた。
集めた落ち葉や草を集めていると霊夢が様子を見に来て、感心したように、

「あら、案外丁寧にやってくれたのね。感心感心♪んじゃ、それ片付けたら家の縁側のほうに来なさい。」

「はーい。」

(さっきまでの喧騒が嘘みたいだ・・・。霊夢さんって人は本当にお金が絡むと機嫌がころころ変わるなぁ・・・。)

そんな事を内心思いつつ超時は集めた落ち葉や草を捨て、霊夢の家の縁側に向かった。
するとそこにはお皿の上に置かれたおにぎりと湯呑みに入ったお茶が置かれていた。
超時が不思議そうに置かれたおにぎりを見つめていると、霊夢が家の奥から現れ、

「それはあんたの昼食よ。掃除が終わったらあんたにあげようと思っていたんだけど、あっちで食べてきたって言うのなら下げるけど?」

「い、いえ!いただきます。・・・あ、でもその前に手を洗わせてもらっていいですか?」

「あぁはいはい。そこの流し台を使っていいわ。」

そう言って霊夢は奥の流しを指差して立ち上がり、自分用のお茶を取りに行った。

「すみません。お邪魔します。」

超時はそう一言ことわってナップサックを縁側に置いてから靴を脱いで上がり、流し台で手を洗った後、再び縁側に戻って足を投げ出し腰掛けた。

「それじゃ、いただきます。」

(そういえば、朝に食堂で朝食をとってから何も食べていなかったなぁ・・・。)

おにぎりは梅、鮭、塩の三種類で、超時はそれをすぐに平らげた。
麗らかな午後の陽気の下、短い昼食を終えてお茶を飲みつつ和んでいると、
自分のお茶を持った霊夢がやってきた。彼女は隣に座りながらお茶を飲み、

「一休みしたら今度は家の中の掃除でもしてもらおうかな。掃除する場所は・・・そうね、お風呂の掃除とこの縁側を雑巾がけでもしてくれればいいわ。あぁ、そうそう。風呂場の外にある釜の近くに薪置き場があるから薪割りも頼むわね。あんた吸血鬼なんだからそれぐらいすぐよね。」

「あの、一応半分は人間なんですけど・・・。」

「細かい事は気にしないの。ささ、そのお茶を飲んだら始めて頂戴。」

「分かりました。おにぎり美味しかったです。ご馳走様でした。」

そう言って超時は手にしていたお茶を一気に飲み干し、湯呑みを霊夢に返却して立ち上がった。腕まくりをして

(さて、腹ごしらえも済んだことだし、本格的に動きますか。)

一人気合を入れ、ナップサックを背負って風呂掃除へと向かった。





少年執事掃除中・・・





「ふぅい・・・薪割りって結構大変なんだなぁ。」

午後の日差しが降り注ぐ中、超時は風呂場の外で薪割りに精を出していた。
昼食を済ませて数時間、超時はその間に風呂場の掃除、縁側の雑巾がけを済ませ、今やこうして外の薪置き場で薪割りに勤しんでいる。
そんな彼の後ろには超時の割った薪が山のように積まれていた。

(それにしても、あんなにあった木をこんなに割ってもあんまり疲れが感じられない・・・。やっぱり半吸血鬼ってすごいな。)

薪を割る斧の手を止め自分の後ろに積まれた薪の山を見て超時はそんな事を思った。
手にはめた軍手で額の汗を拭うと、最後の木を取り出して、

(これで、最後・・・っと。)

最後の薪を綺麗に割り終わり、超時は腰をとんとんと叩いて大きく背伸びをした。

「さて、と。今度はこれを片付ければ終わりだな。」

そう超時は自分に言い聞かせ、後ろに積まれた薪を片付けていると家の中から霊夢の声が聴こえた。

「超時ー?調子はどう?キリのいいところで休憩しましょ。」

「あ、はい。丁度今終わったところですんで、片付けたら行きます。」

そう超時が返事をすると、霊夢は驚きの声をあげた。

「え!?そこにあった薪全部割ったの?この短時間で?ち、ちょっと待ってなさい。」

暫くして、霊夢が外に出てきて超時の後ろに積まれた薪の山を見て唖然とした表情を浮かべ、

「本当に全部割ったのね・・・正直驚いたわ。さすが吸血鬼ね。」

「だから半分は人間ですって・・・。あ、でももしかして全部割っちゃいけませんでしたか?」

超時が恐るおそる問いかけると、霊夢はそれを否定した。

「そんな事はないわ。ただ、あの量をこの短時間で割れるあんたに驚いてるだけよ。普通の人間なら到底無理よこれ。あ、とりあえずそれは片付けといてね。雨の当たらないところに。それが終わったらまた縁側でお茶にしましょ。」

そう言って霊夢は戻っていった。

「了解です。」

超時はそう返事をして割った薪を手早く片付け、薪を割るのに使用した斧をもとあった場所に置き、そこに置いてあったナップサックを背負うと、
流し台で手を洗い、霊夢の後を追った。
超時が縁側に行くと二人分の団子と湯呑みが用意されていた。

(霊夢さんってよっぽどここでお茶を飲むのが好きなんだなぁ・・・確かにここは日当たりもいいし・・・)

超時がそんなことを考えていると、奥から茶出しを持ってきた霊夢が縁側をバンバンと叩き、

「ほら、そんなとこで突っ立ってないでここに座りなさいよ。あんたが掃除してくれたんでしょ。」

「あ、あぁはい。失礼します。」

そう言って超時は縁側に腰を下ろしナップサックを横に置いた。
それを確認して霊夢は湯呑みにこぽこぽとお茶を淹れ、超時に差し出した。
超時はお礼を言ってそれを受け取り、お茶を一口のみ一息ついた。

「それにしても・・・。」

霊夢がお茶を飲みつつ不意に口を開いた。

「この神社には人間の参拝客が来ないわね〜・・・。折角掃除してくれたのに難だけど、こうも客が来ないと気分も萎えるわ〜。」

「そうですね・・・。僕が掃除しているときにも誰ともお会いしませんでしたよ。」

それを聞いて霊夢はため息をつき、再びお茶を飲んだ。その後、霊夢はお団子に手を伸ばしつつ、

「あぁ、そういえばどうなの?材料集めの様子は?わたしがあれだけ協力してやったんだから進展はしているんでしょ?」

「そうですね・・・。あの時は本当にありがとうございました。ですが肝心の材料なんですが・・・」





少年執事説明中・・・





「そう、魔理沙とアリスが・・・。あの二人ならきっと力になってくれるはずよ。」

今までの経緯を説明した超時に霊夢はそう言った。

「そうですけど・・・まぁ茸のことは魔理沙さんとアリスさんたちに任せるとして、この地図を見る限りどこから手をつけたら良いか分からなくって・・・。」

そう言って超時はナップサックからパチュリーから貰った地図を広げ霊夢に見せた。霊夢はそれをまじまじと観察して、

「はぁ〜。あんたもこの世界に飛ばされたことでも大変なのに、こんなに集めるものがあるなんて大変ねぇ。」

「そうですね・・・。まぁでも僕自身この世界に飛ばされて大分経つんですが、この世界のことをもっと知りたくなりました。だから、これについてはちょっとした観光気分でやろうと思っています。お嬢様からも焦らず、じっくりとやれと言われましたしね。」

ははと苦笑する超時に対し、霊夢は団子を食べながら頷き

「そうね、それがいいわ。・・・それにしても、レミリアも素直じゃないわねぇ。」

「・・・?」

お茶を飲んでからぼそりと霊夢が呟いたのに対し超時が首をかしげていると、



――――――超時。



「・・・??」

どこからか超時を呼ぶ声がした。超時が周りを見渡してもそこには霊夢が一人いるだけで、突然の超時の行動を不審そうに見ていた。
超時が空耳だろうと自分に言い聞かせていたとき、

〔超時。〕

今度ははっきりと聴こえた。
その声は超時の首に掛けられているペンダントから発せられていた。
ペンダントの十字架の部分が紫色に点滅しており、よく聴くとそれはパチュリーの声であった。
超時は慌ててペンダントを服の下から出して

「・・・あ、あの、パチュリー様?」

〔聴こえているわよ。とりあえず不備は無いみたいね。・・・まぁ私が手伝ったのだから当然でしょう。〕

「ち、ちょっとちょっと!・・・・・何なのそれは?」

超時とパチュリーが会話をしている間に霊夢がそのペンダントを指差しながら割り込んできて問いかけた

「これはお嬢様がお作りになられた通信機能を持ったペンダントです。今後の材料集めのために使えってパチュリー様から頂きました。」

「ふーん。いつぞやの間欠泉事件で使った紫の陰陽玉みたいなものかしらね。」

〔まぁそんなところよ。〕

ペンダントからパチュリーが答えた。

「そ、それでパチュリー様。どうしていきなり・・・?」

〔あぁ、驚かせてしまったみたいね。それがちゃんと機能しているかただ単にテストしてみただけよ。どう?そっちではうまくやっているかしら?〕

「はい、まぁそこそこですかね。」

〔そう、ならいいわ。夜には帰ってきなさいね。レミィも心配するだろうから。そっちから私達に発信する場合は、話したい方・・・まぁ私かレミィしかいないのだけれど。その人との会話を強く想って念じれば可能な限り応対するわ。〕

「了解です。」

それじゃ、と言ってそれからペンダントの点滅が消えた。どうやら点滅をしている間が相手との会話の合図らしい。
超時がそのペンダントを服の下に入れると、湯呑みを持ってお茶を飲んで口を湿らし、団子を手に取りつつふと思い出したかのように言った。

「あ、そう言えば霊夢さんに聞きたいことがあるんですが。」

「私に?何かしら。下らない事だったら承知しないわよ。」

霊夢は再びお茶に口を付けながら言った。

「え、えぇ。今パチュリー様と話をして思い出したんですけど・・・館である妖精メイドさん達から聞いたのですが、最近『妖怪の山』という所で御柱祭・・・だったかな。そんなようなお祭りが開催されているらしいんですけど、霊夢さんは何か知りませんか?・・・って霊夢さん?」

超時が霊夢を見ると湯呑みに口を付けた状態で完全に固まっていた。
その後、わなわなと震えだし、いきなり  バァンッ  と音を立てて湯呑みを床に乱暴に置くと立ち上がり驚いて団子を取り落とした超時を見下ろして問いかけた。

「それは本当なの?」

「本当かどうか分かりませんけど・・・個人的に興味はありますよ。」

団子を取り落として俯いている超時に対し、霊夢は顔を真っ赤にして怒り出した。

「最近参拝客がサッパリ来なかったわけがこれで判明したわ・・・あいつ等の仕業だったのね。超時、次の仕事よ。妖怪の山・・・いいえ、あの忌々しい守矢神社に殴りこみに行くわよ!」

声を荒げて超時の襟を捕まえ、超時に有無も言わせずに空を飛び妖怪の山へ向かっていった。

目次



    ←第三章へ   A襲い掛かる秋→




           トップ