二人を乗せた箒が森の上に出ると、太陽が西の方に沈みかけ始めており、それと対を成すように東の空から綺麗な月が顔を出し始めていた。
超時はその美しい情景に魅せられ、感嘆の声をあげた。
「うわぁ・・・・・!幻想郷って、本当に綺麗なところですね。新参者であるこの僕に優しくしてくれる人が沢山居て、飛ばされたところがこの世界で良かったです。」
それを聞いて魔理沙は照れくさそうに笑って、
「へへ、他の世界の奴からそう言われるとなんだか照れるぜ。・・・まぁ私は勝手にここで暮らしているだけなんだがなー・・・・・っ!?」
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
突然に魔理沙が箒を急旋回させたため、超時は驚いて魔理沙の腹部にしがみついてしまった。
それに魔理沙は可愛らしい悲鳴をあげると、顔を赤くしてしがみついている超時の頭を肘で小突いた。超時は頭を押さえつつ魔理沙に問いかける。
「痛たた・・・す、すみません。い、一体どうしたんですか?」
「弾幕だ!避けるからしっかり捕まってろよ!」
魔理沙が言い終わるや否や二人の目の前に無数の光球の弾幕が現れ、一斉に襲い掛かってきた。
超時は恐ろしさのあまり目を瞑り、ただひたすらに魔理沙に優しくしがみつく事しかできずにいた。
何度も左右に動く箒に振り落とされそうになっても、超時は手を離さなかった。
いや、離すことが出来なかった。
暫くした後、超時は恐るおそる目を開けると驚いた事に今まで二人の眼前に広がっていた無数の弾幕が全て消滅していた。
超時が驚いていると上空から無邪気な声が降ってきた。
「あははっ、やっぱり魔理沙はすごいなぁーっ!」
超時がその声の主を確認する前に再び弾幕が現れ、魔理沙は箒を握りなおしてそれを避ける。
ある時は早く、またある時は遅くと緩急をつけて鮮やかに次々と襲い掛かってくる弾幕をぎりぎりで避けた。
「す、すごい・・・。けど、これは・・・。」
(よ、酔う・・・)
超時はその動きに魅せられつつもそう心で呟いていると、不意に魔理沙が懐から六角形の物体を取り出し、弾幕を出している相手に向かって叫んだ。
「お前のパターンはもう読みきってるぜ!喰らえ、マスタァースパァァァクッ!!」
すると魔理沙が構えた六角形の物体から極太のレーザーが照射された。
数秒して目映いレーザーが消滅すると弾幕は消滅し、先程の声の主が超時たちの前に現れる。
その姿を見て超時は唖然とした。
「お、お嬢、様・・・?」
(いや、違う・・・アレは一体誰なんだ・・・?)
超時が見たその姿は、体格的にレミリアとさほど変わりの無い幼い女児だが、金髪のサイドテールでナイトキャップを被り、レミリアのものより短めのスカートを穿いていてそれがレミリアより活発な印象を与える。
何より彼女と違う点はその羽にあった。
レミリアの蝙蝠のような羽に対し、目の前にいる彼女の羽は虹色に輝く縦長のひし形の宝石のようなものが背中から伸びた骨格にくっついている美しいものだった。
彼女は今までの激しい攻撃が嘘のような無邪気な笑みを見せて、
「あははっ♪やっぱり魔理沙と遊ぶのは楽しーよ!・・・次のこれは避けられるかなぁ〜?」
いつの間にか彼女の笑みには重い影が落ち、言い終わらないうちに再び無数の弾幕を張り巡らせて二人に襲い掛かるよう仕向けた。
魔理沙は一息ついて箒を握りなおし、再び弾幕を避け始めようとした、その時だった。
「その後ろのはダァレ?」
不意に彼女の声が二人の背後から聴こえ、ギョッとした二人が振り向くといつの間にか移動していた彼女が超時めがけて鋭いつめで切り裂こうとした。
「っ!?」
超時は反射的に体勢を変え、間一髪のところでそれを避けた。
しかし、その体勢がまずかったらしく、超時は完全に魔理沙の箒から離れてしまっていた。
「しまっ・・・・・!?」
魔理沙は慌てて超時を助けようとするが、目の前に迫り来る弾幕に遮られてしまう。
魔理沙は悪態をつきながらそれを避ける事しかできなかった。
「おっこっちゃえーっ!!あははははははは!」
超時は彼女の狂気じみた笑い声が遠くなるのを感じつつ、真っ逆さまに落下していった。
(こんなところで、僕は死ぬのか・・・!)
せめて落下の衝撃を少しでも抑えようとして体を強張らせたときだった。
不思議な事に超時の落下するスピードが徐々に低下し、木に触れるギリギリの距離で止まって超時は再び宙に浮けるようになった。
(・・・い、一応なんとかなったのかな・・・?でも、どうしてまた飛べるように・・・?)
超時がそんな疑問を抱いていると、上から、
「おーい超時!大丈夫かぁー!?」
声の主はなんとか弾幕を避けきった魔理沙だった。
超時はふわふわと魔理沙がいる高度まで飛んで行くと、
「・・・まったく、ひやひやさせやがって。お前、飛べるんならさっさと飛んでくれよ。無駄な演出なんてこっちは求めてないぜ。」
魔理沙が安堵の表情を見せため息混じりに言うと超時は苦笑いを浮かべつつ、
「すみません、昼間は飛べなかったんで・・・。自分でも不思議なんですよ。」
そう超時が弁解をしていると、金髪のサイドテールの少女はふてくされて、
「〜っ!つまんな〜い。」
そう言って今度はどこからか曲がった杖のようなものを取り出した。
先端がトランプのスペードのような形をしており、歪な形をしたその杖はまるで悪魔の尻尾のようであった。
彼女がその杖を構えると、彼女の周囲に再び大量の弾幕が現れた。
今までよりも圧倒的な量の弾幕を前に超時と魔理沙は顔を引きつらせた。
その表情を見て満足したのか、金髪のサイドテールの少女はニヤリと笑って、
「今度はこれねっ!禁忌、レーv・・・」
ドシュウゥッッ
彼女が超時と魔理沙にその弾幕を浴びせようとしたその時、一本の紅い光を放つ槍のようなものが彼女の背後からその弾幕を貫いた。
予想外の事に驚いたのか、その少女はびくりとして弾幕を消失させた。
弾幕を貫いた槍のようなものも紅い光の粒となって消え、その後彼女の背後から超時の聞きなれた声が聴こえた。
「『神槍 スピア・ザ・グングニル』・・・探したわよ、フラン。」
超時が少女の奥に眼をやるとそのいたのは紛れも無く紅魔館の主、レミリア・スカーレットがそこにいた。
「お、お姉さま・・・。」
前方の少女が誰にも聴こえないように小さく呟き、たじろいだ。
「お嬢・・・様?どうしてここに・・・・?」
超時は驚いてレミリアに尋ねる。
彼女はそれにため息混じりに答えた。
「貴方の隣にいる魔法使いの所為でちょっとね。以前貴方を案内した地下室を覚えているかしら?その地下室の鍵がそこにいる魔法使いの滅茶苦茶な訪問で壊されてしまってね。中にいたこの子が外へ出てしまったの。それで外を探して飛んでいたら森の上で弾幕が見えたから駆けつけたって訳よ。」
「そ、それじゃあ、あの部屋って・・・。」
「えぇ、あの子を閉じ込めておく部屋。・・・まぁ牢屋みたいなものね。」
「閉じ込めておくって・・・その少女は一体お嬢様とどういった関係なんですか?」
「この子の名前はフラン。フランドール・スカーレット。私の妹よ。」
「い、妹!?」
(髪の色とか羽とか少し違うところはあるけれど、確かにどこと無く似ているなぁ・・・。)
「この子は少し情緒不安定なところがあってね、能力的にも危険だったからあの部屋に入れておいたのだけれど・・・魔理沙に壊されてしまったからねぇ。魔理沙が壊さなかったらこんな事にもならなかったのにねぇ。」
レミリアが皮肉たっぷりに言うと、魔理沙が挑発するように言う。
「さっきから私の事を悪者扱いとみているようだが、そっちの強度にも問題があるんじゃないか?門番といいメイドといい、あんな警備じゃあバカな妖精でも入れるぜ。」
「言うわね魔理沙。そろそろその減らず口もほどほどにしないと酷いわよ?」
両者の間に不穏な空気が広がる。
それを察知して超時は慌てて取り繕う。
「あ、あのお嬢様も魔理沙さんも落ち着いて・・・。お嬢様、とりあえずはその、妹様を・・・。」
「・・・それもそうね。こんなところで油を売っている暇など無いものね。・・・さ、フラン、帰るわよ。」
そう言ってレミリアはフランドールの肩にポンと手を置くと、フランドールはそれを振り払って、
「やだやだ!まだ魔理沙とこいつで弾幕ごっこしたい〜!」
(こいつって・・・僕のことなのか・・・?)
駄々をこねるフランドールに対し、レミリアはさも落ち着いた口調で、
「駄目よ、フラン。貴方が勝手に外へ出てきてしまったら、館にいる咲夜たちに迷惑がかかるじゃない。外へ出たいのならまた今度みんなで外出しましょう?」
「うゅ・・・・。」
フランドールは姉であるレミリアに叱られ、むすっとした表情をみせてうなだれた。
それを見て安心したのか魔理沙が不意に口を開いた。
「ま、レミリアが来たなら私の出番はもう無いな。とりあえず私は家に戻って魔法の茸の専門誌でも探しとくぜ。じゃぁな。」
別れの挨拶も手短に彼女はもと来た道を帰って行った。
超時はそれに答える暇も無く、小さくなっていく魔理沙の背中を見つめた。
「さ、魔理沙も帰ったことだし私たちも館に帰りましょう?」
「は〜い・・・。」
レミリアが言うとフランドールは渋々頷き、館のほうへ飛び始めた。
が、少し行ったところで止まって、振り返り、
「そーいえば、この人間はなんなの?新しい玩具?」
そうフランドールはレミリアに問いかけ、レミリアは東雲超時のことを掻い摘んで説明した。
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吸血鬼説明中・・・
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レミリアが説明を終えるとフランドールは興味深そうに超時をしげしげと見つめ、
「ふぅん・・・コージって言うんだ。・・・変な名前ね。」
まじまじとフランドールに見つめられた超時は、
(こうしてみるとやっぱりどこと無くレミリア様と似ているなぁ。・・・吸血鬼にも姉妹って出来るんだなぁ。)
そんな事を思っていると、レミリアが二人に向かって言う。
「フラン、早く帰りましょう?咲夜たちが心配しているわ。それに超時、あなたもパチェを待たせているのでしょう?」
それを聞いて超時はバツが悪い表情を見せ、フランは頷いて紅魔館へと向かう。
途中、フランドールは超時に先程のことを謝った。
超時はそれに笑顔で応じ、レミリアにお礼を言った。
するとレミリアは一瞬驚いた表情を見せ、微笑みながら、
「あら、私はフランドールを探していただけで、そこに丁度貴方と魔理沙が居合わせただけじゃない。・・・まぁ、主として一応心配はしていたのだけれど、まさかこの子と一緒にいるとは思わなかったわ。」
ふふっと笑うレミリアのその表情には紅魔館の主としての品格の他に、どこか姉らしさも感じられた。
超時が月の光に照らされているレミリアの表情に魅せられていると、レミリアは前方を飛ぶフランドールを見ながら超時に向かって言う。
「さて、あの子が出てきてしまったおかげで紅魔館も随分と忙しくなるわ。その時には超時、貴方にも目一杯働いてもらうわよ。時々でいいからあの子とも遊んであげて頂戴。」
「わ、分かりました・・・頑張ります。」
超時がそう言うとレミリアは満足したような笑みを見せ、
「ふふ、よろしい。あ、そうそう、私が命じたお使いはきちんと出来たのかしら?」
レミリアが超時にそう問いかけると、超時は得意げな顔になってバッグに目を落としながら答えた。
「勿論です。人間の里で上白沢慧音さんという方にお会いして、それから・・・・・」
超時は今日あったことを掻い摘んでレミリアに話した。
彼女はそれを横に並んで飛びながら微笑して聞き入り、レミリア、フランドール、超時の三人は紅魔館へと帰っていくのだった。