超時が紅魔館を出ると外は綺麗に晴れわたっていて、手前の湖が太陽の光でキラキラと光っている。
一度部屋に戻って手頃なバッグに籠を入れて持ってきた超時は深呼吸して飛び立とうとすると、昨夜のように宙に浮く事ができなくなっていた。
「・・・?」
超時は何度か挑戦してみたが一向に飛べない事がわかると、
(まぁいいか。歩いていこう。)
そう結論を出し、歩いて紅魔館の外へ初めて出て行くのであった。
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(少年執事移動中...)
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暫くして超時は紅魔館から伸びた道をたどって歩いていくと、活気のある人里へ降りてきていた。
人間は勿論、妖怪や獣人といった人間以外の種族も確認できる。
老若男女が行き交い、様々な商店が立ち並ぶその様を見て、
(幻想郷ってこうしてみると「和」の雰囲気だなぁ・・・でも、紅魔館は洋風だったし、印象が全然違うな・・・。それにしても、凄いところに飛ばされてしまったなぁ・・・)
超時がそんな事を思いつつ人間の里の活気に魅了されていると、
ドンッ
「・・・あ、すみません。」
不意に誰かにぶつかり、超時は慌てて謝る。するとぶつかった相手は優しく、
「あぁ、私の方こそすまない。少々考え事をしていたものでね。」
そう言うと彼女は地面に落ちてしまったリボンのついている角ばった帽子を拾い上げ被りなおした。
銀色のロングヘアーが美しい女性であった。
その女性は超時を見ると、
「・・・おや?君のその格好・・・初対面で申し訳ないが、君はもしかすると紅魔館の者か?」
「は、はい。そうですけれど・・・。」
(ここじゃ紅魔館の関係者はもしかして好印象を持たれてない・・・?)
そう不安に思いながら超時は返事をすると彼女は興味深そうに超時をまじまじと見て、
「ほぅ・・・やはり紅魔館の関係者か。いつもここで紅魔館の者はメイドしか見ていなくてな。執事がいたとは私も初見だよ。今日は何の用でこの人間の里に?」
「あ、僕は人間の里に用がある訳じゃなくて・・・。」
超時はレミリアから言われたおつかいで香霖堂へ行く事を彼女に話した。
すると彼女はクスリと笑みをこぼして、
「そうか、あの吸血鬼がシャンプーハットを・・・なかなか可愛らしいところもあるじゃないか。いつも生意気な奴だと聞いていたが、意外な一面もあるものだな。丁度私も香霖堂に用があってな。どうだ、君がもし良ければ一緒に行かないか?私は君に聞きたいことがいろいろとあるのだが。」
「分かりました。僕としても心強いです。」
超時がそう言うと不意に後ろから小学生位の子供が彼女に走り寄ってきて、
「けーねせんせー、今日は授業やらないのー?」
そう無邪気に言う子供に対し彼女はにこやかに、
「あぁ、今日はちょっと用事があってな。出掛けないといけないんだ。悪いが今日はみんな家で自習だなんだが、宿題は終わったのか?」
そう言うと、その子供はハッと思い出したかのように、
「し、宿題わすれてたーっ!」
そう言って走り去ってしまった。
(何だったんだ一体・・・?)
超時がそう思って唖然としていると彼女は苦笑し、
「すまないすまない、今のは私の生徒でね。私は上白沢 慧音(かみしらさわけいね)。この人里で小さな寺子屋を営んでいる身だ。・・・君は?」
「僕は東雲超時という者です。」
「そうか、では東雲。香霖堂へ向かうとしようか。」
「は、はい・・・。」
そう言うと二人は香霖堂がある魔法の森の方へ歩いていった。
そこへ向かう途中で、
「それにしても珍しいな。君のような人間が執事を勤めているなんて、あそこはメイドばかりだと思っていたのだが・・・いつごろからあそこに?」
「確か、二日くらい前ですかね・・・。」
「ほう・・・。それはそれは、根っからの新人じゃないか。どうだ?あそこの仕事は辛いのか?」
「は、はぁ、えっと、実際の仕事はこれからなんですけど、門番さんの庭仕事を手伝ったり、館の掃除や家事全般もやらなきゃいけないので結構大変だと思います・・・。」
そんなやり取りを踏まえつつ、二人は香霖堂へと向かっていった。
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(少年執事移動中...)
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暫く行くと人里を離れ、鬱蒼とした森が超時の視界に現れた。
その森はジメジメとしていてまるで熱帯雨林のように生い茂っており、太陽の光があまり届かないようで一寸先が暗くてあまり確認できない。
超時はその森を見ていると慧音が、
「おーい、香霖堂はこっちだ。そこから先はあまり近づかないほうがいいぞ。茸の胞子で普通の人間は体調を崩してしまうからな。」
その呼びかけに応じ、超時は慧音のほうに行くとそこにはぽつんと一つの小屋が建っているのが見えた。
そこには『香霖堂』と書かれた看板が掛けられ、扉が開け放たれており、扉の外にも色々なガラクタのような商品が置かれている。
超時はその倉庫のようなその雰囲気に、
(本当にやっているのかここは・・・?)
そう不安に駆られながらも慧音に続いてその店内に入って行くと、中は更にごちゃごちゃとしていて本物の倉庫の様であった。
超時が唖然としていると、慧音が不意に、
「霖之助〜、いるかー?」
そう呼びかけると店の奥からメガネをかけた男性がぬっと現れた。
霖之助と呼ばれたその男性は慧音を見ると、
「誰かと思えば寺子屋の慧音じゃないか。一体どうしたんだい・・・おや、其方は?」
「あぁ、彼は東雲超時君。先程里で知り合ってね、紅魔館の新人執事だそうだ。」
「あ、初めまして。」
超時は一礼して挨拶すると、彼は興味深そうに超時を見つめ、
「これは実に興味深い。あの紅魔舘が執事を雇うとは・・・。確かにそのなりを見ると信じない訳にはいかないが・・・うーん、実に興味深いなぁ。」
彼は一人でぶつぶつと呟きながら超時を一瞥すると、不意にハッと我に返り、
「いやいや、失敬失敬。時折こうなってしまうんだよ。あぁ、僕は森近霖之助(もりちかりんのすけ)。この香霖堂の店主を務めている者だ。・・・ところで慧音。今日は一体なんの用でここに?」
霖之助は超時に自己紹介をし、慧音にそう問いかけると慧音は手にしていた本を手渡し、
「この前うちに来たときの忘れ物だ。今度からは気を付けてくれよ。」
「あぁ、すまない。ずっと探していたんだ。寺子屋に置きっぱなしだったのか・・・。」
本を受け取りつつ霖之助が言うと今度は超時の方を向いて、
「そういえば君はいったい何の用でこの香霖堂へ?」
「あぁ、それは・・・。」
超時は霖之助に慧音の時と同じくおつかいの事を話した。
すると彼は、
「これはまた興味深い。シャンプーハット・・・なるほど、それなら確かここら辺に・・・」
そう言うと店の一角にある箱の中をあさり始め、その中から桃色のシャンプーハットを取り出した。
「これくらいならあの吸血鬼のサイズにピッタリだろう。お代は要らないから持っていってくれ。」
「いいんですか?」
「あぁ、ここでは僕との交渉によって商品を渡すか否かを決めているからね。それは、別に交渉するまでも無い。ただでいいさ。」
超時はお礼を言ってそれを受け取り、バッグに入れた。
霖之助はそれを確認するとしみじみと、
「紅魔館というと、いつもあのツンとしたメイドしか見ないからな。君のような子がこうやって来てくれると我々も親しみやすいんだがな。」
「それは私も同意見だ。彼女も悪い奴では無いのだが・・・。」
(咲夜さんのことかな・・・。)
そう言う二人にそんな事を思いつつ、超時は、
「あの、そろそろ僕行かないといけないのでこれで失礼します。」
そう言うと慧音が微笑んで、
「紅魔館の従者は忙しそうだな。おせっかいかもしれないが、体調には気をつけろよ。働きすぎも体に毒だからな。私はもう少しここで物色していることにしよう。」
そう言うと霖之助が笑いながら、
「おやおや、慧音、君との交渉は面白くなりそうだな。」
そう言うと彼は近くにあった椅子に座り、超時に向かって、
「時間が空いたらまた来るといい。茶などは出せないが歓迎するよ。」
「あ、ありがとうございます。」
超時は再びお礼を言って香霖堂を後にした。