霊夢が風呂をあがり、超時は釜の中に残った薪の後始末をしているとレミリアと咲夜が話しながら戻ってきた。

「あの温泉、なかなかだったわね。霊夢個人のものにしておくのは勿体無いわ。」

「そうですねお嬢様。あの温泉の効能なのか存じませんが、体が少々軽くなった気がしますわ。美容にも効果がありそうですし、今度はパチュリー様もお誘いなってはいかがでしょうか。」

「それも良いわね。それと、一緒にいた河童から借りたあの・・・『しゃんぷーはっと』と言ったかしら、あれはとても画期的なアイディアね。流水が苦手な私にとって非常に有難いわ。」

「あのような道具は私も存じておりませんでした。河童の技術とその発想力は尊敬に値しますわ。」

「あそこで返してしまったのが今となっては残念ね。夜が明けたらあの子に買ってくるよう言いつけようかしら。」

「それは名案ですわ。・・・あら、噂をすれば。」

咲夜が丁度釜の片付けを終わらせた超時に気付き、彼はお帰りなさいと挨拶をするとレミリアが問いかける。

「その様子からすると、おおかた霊夢に風呂焚きでも強いられたんでしょう?・・・で、その霊夢はどこかしら?もうそろそろ夜が明けるから帰ろうかと思ったのに。」

それを聞いて超時は空を見ると東の空が微かに明るくなっていた。彼はレミリアに、

「霊夢さんならお風呂を上がって早々に『もう寝るから』と・・・。」

「そう、それならいいわ。このまま帰りましょう。わざわざたたき起こすのも野暮だものね。」

そう言って彼女は宙に浮き、紅魔館の方角へ飛んでいくとそれに咲夜と超時が続く。
 
 暫くして三人は紅魔館に帰って来て、エントランスに入るとレミリアが欠伸をしつつ、

「今日はもう寝るから、二人ももう上がっていいわよ。それじゃ、お休み。」

そう言い残して彼女は階段を登って行った。咲夜と超時はお辞儀をして彼女を見送った後、咲夜が超時に向かって、

「私はこの後先程の衣類の洗濯があるから、貴方は先に休んでいて良いわよ。起床は三時間後よ。この時間ならパチュリー様はすでにお休みだからその瓶はまだ持っておくと良いわね。とりあえず、辰の刻にもう一度集合ね。」

超時が屋敷の時計を見てそれに頷くと、咲夜はそれじゃあと言って歩き去ってしまった。
一人残された超時は自室に戻り、巫女の涙の入った小瓶をポケットから取り出してテーブルに置くと、服を脱ぎ湯の張った風呂で疲れを癒した。

(今は、大体寅だから辰の刻までまだ時間があるな・・・)

部屋にかけられた時計を見ながらそんな事を思いつつ、部屋着に着替えベッドに横になるとすぐに睡魔に襲われ、眠りに落ちた―――



(少年睡眠中...)




 数時間後、超時は目を覚まして時計を確認すると、時計の針は卯の刻を少し過ぎたところを指していた。
のそのそと起きだして洗面所で顔を洗い、身だしなみを整えて部屋を出ると丁度隣の部屋から咲夜が出てきた。
超時は彼女に挨拶をすると、

「あら、おはよう。やけに早いのね。まぁ従者としての初仕事の日に寝坊をするのはお仕置き以前の問題ですからね。それじゃ、下に行くわよ。」

そう言って彼女はツカツカと階段を降りていった。
超時もそれについていき、一階に来るとそこにはすでに数人のメイド妖精がいた。
メイド長である咲夜に彼女達は挨拶をすると咲夜はそれに応じた後、超時に向かって、

「とりあえず、貴方には今日の朝刊を取ってきてもらおうかしら。外に出て中国のいる門のところに行って『文々。新聞』がある筈だから、持ってきたら食堂の隣にある棚にでも置いておいて頂戴。その後、厨房に来なさい。朝食の準備を手伝ってもらうわ。」

そう言って彼女は厨房のほうへと歩いていった。
超時は外に出てちゅうご・・・美鈴のいる正門へ向かった。

「あの・・・美鈴さん?」

結論から述べると、美鈴は寝ていた。
超時は大きな鼻ちょうちんを膨らませて気持ちよさそうに立ったまま寝ている美鈴にそっと声をかけた。
しかし、彼女は頭をカクンと上下させただけで起きる気配が無い。
超時は仕方なく彼女の肩を掴み、ゆすって起こしてみると鼻ちょうちんがパチンと割れて美鈴は目を覚ました。

「ハッ・・・!あ、おはようございます超時さん。今日はお早いですね・・・どうしたんですか?」

「おはようございます美鈴さん。今日から本格的にここで働く事になって、今朝刊を取りに来たんですよ。」

「あぁなるほど〜。それならそこに入ってますからお願いしますね。私はまだ門番の仕事の時間なのでまだここを離れるわけにはいきません。もう少ししたら終わりなんですけどね〜。」

そんな事を話していると二人の間に朝の気持ち良い風が通り抜ける。

「それじゃ僕はこれで。」

「あぁ、はい。お仕事頑張って下さいね。今日の庭仕事は特に手伝って貰う事でもないので、大丈夫ですよ。」

超時はそう美鈴に言って紅魔館へ戻って行こうとすると美鈴が呼び止め、

「居眠りの事は内緒にしておいて下さい。頼みます〜。」

そう懇願されると超時はにこやかに了承し、紅魔館に戻って行った。
 朝刊を咲夜に言われた所定の位置に置き、厨房へ向かった超時はそこで咲夜と合流した後、レミリア達の朝食の準備をした。
それが終わると従者用の食堂で朝食をとり、自室に戻って自分の服と昨日着ていた執事服を洗うため洗濯室に行くと、そこには先程レミリアとパチュリーに朝食を持って行った咲夜がいた。
彼女は超時に気付くと、

「あら、ここに何の用かしら?」

「この前咲夜さんが仰っていたように、自分の服を洗濯しに来たんです。・・・咲夜さんも洗濯ですか?」

「えぇ、お嬢様と私の服を丁度洗い終わったところよ。」

そう言うと咲夜は洗濯物の入ったカゴを左手に持って洗濯室を出て行こうとしたその時、そのカゴから薄肌色の物体が転がり落ちた。
超時は親切心からそれを拾い、

「咲夜さん、何かおちましt・・・」

その物体を確認した咲夜は表情を一変させ、鬼のような形相で超時に詰め寄り、

「どうもありがとう。貴方、これは何か知っていらして?」

表情では笑っているがその瞳はまるで笑っておらず、超時は声を震わせて、

「いや、別に、よく分からないんですが・・・?一体何に使うんですか?・・・もしかしてパッ――」

超時のその言葉遮るかのように咲夜は冷たく言い放つ。

「貴方は知らなくて良いものよ。・・・それより、貴方パチュリー様の所には行ったのかしら?涙の入った瓶を渡すのでしょう?」

その肌色の物体を受け取った咲夜が思い出したように言うと超時はハッとして、

「そ、そうでした。すっかり忘れていました。部屋に置いてあるんで洗濯が済んだら向かいたいと思います。」

「そう。まぁ頑張ることね。」

そうそっけなく言って咲夜は洗濯室を出て行った。
超時は急いで洗濯を済ませてその服を紅魔館の最上階にある彼の部屋に干して、テーブルに置いたままだった小瓶を持ってパチュリーの居る地下の図書館へ向かった。

 超時の向かった図書館はいつものように薄暗く、入ったところに小悪魔がいた。
彼を待っていたらしくぺこりとお辞儀をすると超時もそれにならって挨拶をした。
すると彼女は向きを変え図書館の奥へ入っていった。
どうやらついて来いといゆう意味らしく、しきりに超時の方を振り向いている。
彼はそれに応じ、彼女の後について行く。暫く歩いて超時と小悪魔はパチュリーのいる場所へ出た。
超時が彼女に話しかけようとした時、突然轟音がして図書館全体が揺れた。

「な、なんだ・・・っ!?」

超時が困惑していると、再び轟音がして今度は図書館の天井にひびが入り、次の瞬間その天井がすさまじい音を立てて超時の頭上に崩れ落ちてきた。
彼は突然の出来事に反応できず、不運にもその瓦礫の下敷きになってしまった。
すると、図書館の天井に開いた穴から外の眩しい光と共に箒に跨った人影が一つ現れた。
その人影は跨っていた箒からひらりと降りて着地すると、陽気な声で、

「よぉ、パチュリー。また借りに来たぜ。」

その声を聞くとパチュリーは呆れた顔をして、溜息混じりに

「まったく、魔理沙ったらいつになったらドアから入ってくれるのかしら。いい加減学習して頂戴。」

魔理沙と呼ばれた白黒の魔法使いのような衣装を来たその少女は、パチュリーの不満そうな声に耳も貸さず鼻歌交じりに本の物色に取り掛かっていた。
 数分後、彼女が白い布製の袋に沢山の本を詰め込んで戻ってくると、ふと瓦礫の中に転がる小さな小瓶が目に付き、それを手に取ると、

「なんだこりゃ?」

そう言ってポケットに入れてしまった。それを見ていたパチュリーは、

「あっ、それは・・・!」

そう言って咎めようとすると、魔理沙はパチュリーの鼻がつくかつかないかぎりぎりの位置まで自分の顔を近づけ、優しい声で彼女に囁いた。

「お前がいてくれてほんと助かるぜパチュリー。お前がいてくれるおかげで私は心置きなく本を借りれるんだ。ありがとな。」

「そ、そんなこと・・・・・。」

そう耳元で囁かれたパチュリーは赤面し、押し黙ってしまった。
魔理沙はそれを見て微笑み、袋を担いで箒に跨りつつ、

「それじゃこれらは借りてくぜ・・・死ぬまでな。」

そう言い残して彼女は天井に空いた穴から飛び去っていった。
 彼女が飛び去って数分、小悪魔は安全を確認しながら隠れていたところから出てくると、

「〜っ!?」

その情景に驚きつつも、放心状態に陥っているパチュリーを起こした。
するとパチュリーは我に返って、

「・・・・・はっ!いやいや、駄目駄目。アレは、あの子の・・・って、もういない、の。・・・・・あら?」

目の前に瓦礫の下敷きになっている超時を発見した。
彼女は指を一振りすると彼の上にのしかかっていた瓦礫の山が天井に飛んで行き、天井に空いた穴を元通りに修復した。
パチュリーはその後、超時を見て、

「ちょっと、大丈夫?・・・って気絶してるわね。」

すると彼女は彼を仰向けにして寝転がせ、彼の胸元に手をかざすと薄緑色の光が超時の体を包み、暫くして彼は目を覚ました。
彼は起き上がりつつ、

「い、一体何が起こったんですか・・・?」

そうパチュリーに問いかけると彼女は溜息混じりに、

「貴方は気絶していて分からなかったでしょうけど、今ここに霧雨魔理沙という子が来たの。あの子はちょっと手荒なところがあるから天井を突き破って来て、貴方はその瓦礫の下敷きになってたってわけ。そして、問題なのは貴方が気絶している間にせっかく貴方が持ってきた巫女の涙が、彼女に持ってかれちゃったのよ。」

一瞬の沈黙の後、超時が驚きの声を上げた。

「そ、そんな・・・!すぐに彼女を追いかけましょう!」

そう超時は提案するとパチュリーは頷き、

「そうね、あの子があれに何かする前に手を打たないといけないわ。彼女の家は魔法の森の中にあるから・・・あ、魔法の森といえば、確か材料の中に『魔法の森の茸』があったわよね。丁度いいわ、涙の取り返しついでにそれも採取してきて頂戴。」

そう言うと彼女は虫かごのような容器を超時を渡した。

「分かりました。これに入れればいいんですね。それじゃあすぐに行ってきます。」

そう言って超時は図書館を出て行こうとしたとき、入り口の前に咲夜が突然現れた。
すると彼女は超時に、

「待ちなさい、超時。魔法の森へ行く前にお使いの仕事よ。お嬢様が昨夜仰ってたのだけれど、『しゃんぷーはっと』と言うものを買ってきてほしいの。」

「シャンプーハット?構いませんけど・・・どこに行けばそれは手に入りますか?」

「そうね・・・丁度魔法の森の方へ行くのなら、森の手前にある『香霖堂』とゆうところにはあるんじゃないかしら。上でも先の魔理沙の襲来で所々壊されちゃったから私や他のメイド達はその修理に取り掛かるわ。お嬢様がお目覚めじゃなかったのが不幸中の幸いね、もしお目覚めでいらっしゃったらどんな恐ろしいお仕置きが待っているか・・・。」

彼女は身震いしてそう言うと「頼んだわよ。」と念を押して図書館を出て行った。
超時はパチュリーの方を向いて、

「・・・ということなんで、帰ってくるのが少し遅くなるかと・・・。」

そう言うとパチュリーは頷き、

「えぇ、分かったわ。その間私たちはここの整理でもしときましょうか。あ、そうそう今回の事を反省して、材料は私の部屋まで持ってきて頂戴。そこならまだ安心だと思うから。それに、いざ作るときになるとココじゃ駄目だものね。こあが黙っちゃいないわ。」

「分かりました。持ってきた材料はパチュリー様の部屋へ持っていくようにします。・・・ところで、パチュリー様。」

「何かしら?」

「ぶしつけな質問で恐縮なんですが・・・その霧雨魔理沙さんが来たとき、パチュリー様はどうしてらしたんですか?僕は気絶していて何も分からないんですが・・・。」

そう超時が問いかけるとパチュリーは顔を赤くして、

「ば、バカなことを聞くんじゃないわよ。私はあの時、ちゃんと机の下にもぐって非難してたわよ。」

それを聞いて超時はほっとしたように微笑んで、

「それなら良かった。もしパチュリー様にお怪我でもあったら僕はどうしたらいいか・・・。」

「いいのよ気にしなくて、あれはもう日常茶飯事なんだから。ただ今回は貴方がそのとばっちりを食らっただけなの。」

「そうなんですか・・・。」

「ほら、時間が無いわ。早く行きなさい。」

「分かりました。それじゃ、行ってきます。」

そう言って超時は図書館を出て行った。

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第三章「見習い執事の災難」

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