バァンッ!!!

もの凄い音を立てて彼、東雲超時は転がり出てきた。

「いたたたた・・・・・一体何が起こったんだ?」

超時はそう言うとジンジンと痛む体を起こしながら辺りを見回す。

そこは赤を基調とした部屋で、どうやらクローゼットから出てきたらしい。

目の前の比較的大きめのクローゼットが大きく開け放たれている。

・・・中の衣類もろとも散乱した状態で。

すると、人の気配がしたのでその方を見ると、白く煌めいた銀髪で美しいスタイルを持った女性がなぜか純白の下着姿で超時を見ていた。

二人の目が合った次の瞬間、

「キ、キャァァァァァァーーーーーーッ!!!」

彼女は部屋中に響き渡る悲鳴と共にどこからか取り出したナイフを超時に向けて投げつけた。

もともと運動神経がよかった彼はパッと身を引き、ナイフを避けた・・・つもりだったが、完全に避けることはできずに顔に一閃、血筋が表れた。

    と同時に足元に散乱していた彼女のものと思われる衣服に足を奪われ、きれいな円を描いて後頭部から見事に落下した。

超時は一瞬にして目の前が暗くなった。


「う、う〜ん・・・。」

暫くして、超時はフッと目を覚ました。

ぐわんぐわんとまだ脳が揺れているのを堪え、ゆっくりと身体を起こした。

自分の手足には何故かロープが巻きつけられていて自由な動きができなくなっていた。

それに不信感を募らせつつ、辺りを見渡すとそこは先ほどのような生活感のある部屋とは様子が違う。

赤が基調なのは同じだが、部屋の内部構造は生活する、というより洋風の大広間を連想させられる。

超時は昔からこのようにいきなり違う空間に飛ばされることがあったので慣れてはいたが、今回は今までとは違って実際に痛みや床に敷いてある赤い絨毯の感触もある。

いつもとは違う光景に困惑していると、

「・・・お目覚めかしら?」

背後から声がして、振り返ってみると外に紅い月が出ているガラス窓をバックに一人の少女が椅子に座っていた。

すると、月が雲に隠れその少女の姿があらわになる。

その少女はとても小柄で、身長は大体120〜130cmくらいの年齢が10歳も満たしていないように見える。

薄桃色のドレスに身を包み、唯一彼女の容姿で気になる点があるとすれば、その小柄な背中から生えているコウモリのような翼が生えていることだ。

そしてその顔立ちは深紅よりも深く、全てを見透かすような紅の瞳を持っており、その瞳とは対照的にきれいな水色のショートヘアーで頭にはドレスと同じ薄桃色をした赤いリボンのついた可愛らしい帽子をかぶっている。

超時は彼女の放つ、なんとも言えないオーラに気圧されて自分より小さい相手に敬語を使って尋ねた。

「あ、貴女は一体・・・・・?」

すると、彼女はにやりと笑い怪しく光る鋭い八重歯を見せ、

「私はレミリア。レミリア・スカーレット。この紅魔館の主よ。・・・とりあえず貴方には『長旅ご苦労様。幻想郷へようこそ。』とでも言っておこうかしら。それで、貴方は?」

「僕は、東雲超時。一体ここはどこで、僕はどうなってしまったんですか・・・?」

「・・・そう、まだ貴方には自覚がないのね。」

レミリアはそう言うと、軽くため息をついて、

「貴方は貴方の世界で大きめの事故に遭い、あっちでは意識不明の重傷を負っているわ。ただ、貴方の能力・・・見たところ『時空を跳ぶ程度の能力』といったところね。その所為で貴方の精神だけは貴方の住む世界と遠くはなれた世界『幻想郷』に飛ばされたの。」

超時はそれを聞いて目を丸くした。

確かにあの時、トラックのライトの光が自分の視界を覆い、それから暫くして先ほどのクローゼットから飛び出してきたわけで、どうやら

彼女、レミリアの言っていることは真実らしい。

しかし、彼の中に二つの疑問が浮かび上がる。

「どうして僕の精神だけがこの幻想郷に来たんですか?そしてどうしたら僕のもと居た世界に帰れるんですか?」

するとレミリアは、

「それは、そうなる運命だったからよきっと。帰り方についてはそんなの私が知るはずも無いわ。・・・・・でもこの紅魔館の図書館にいるあの子なら何か知っているかもしれないわ・・・咲夜―っ!」

レミリアがそう呼ぶと、どこからともなくメイド服に身を包んだ一人のきれいな女性が現れた。

背筋がピンと伸び、きらめく銀髪が印象的だ。

超時は咲夜と呼ばれた女性を見るとすぐに先程の部屋にいた下着姿の女性を思い出した。

あの時の女性は彼女だったのだ。

しかし今彼の目の前にいる彼女は先程とは違い、冷たい蒼い瞳で彼を一瞥するとレミリアの方を向くと透き通った声で、

「何か御用でしょうか、お嬢様。」

そう言うと、レミリアが、

「えぇ、用があったから呼んだのよ。そこにいる彼をパチェのところに連れて行ってやって頂戴。事情は彼から聞くといいわ。私はちょっとした用事があるから後は頼んだわよ。」

レミリアはそういい残して音も無くあっという間に姿を消した。

紅魔館のロビーには咲夜と超時の二人が残された。一拍おいて咲夜が超時の手足に巻かれていたロープをナイフで切り、事務的な声で

「・・・では、行きましょうか。」

そう言うと彼女は向きを変え、出口のほうへ歩いていき超時も立ち上がってその後に続いた。

バタンと扉を閉めて二人は廊下に出、咲夜の後ろについて行きつつ超時はここで初めて口を開いた。

「あ、あの・・・貴方はさっき部屋で・・・」

下着姿で・・・といいかけたその瞬間、咲夜は身を翻してまたどこからかナイフを取り出し超時の喉元へ突きつけた。

超時が驚愕して硬直していると、咲夜は脅すように

「さっきのことは忘れなさい?貴方は何も見なかった、そうしておいた方が身のためよ。」

そう言い放った咲夜に対し、超時は震える声で、

「は、はい・・・。」

そう呟くのが精一杯だった。

すると彼女は軽く微笑み、ナイフを下げつつ、

「ふふ、よろしい。ちゃんと言いつけを守る子は好きよ。」

同時に超時は硬直状態から開放され、ヘナヘナと力なく床にへたり込んだ。

体中から嫌な汗が噴出し呆然としていると、彼女は何事も無かったかのように、

「ほら、何をしているんですか?こちらの角を曲がったら地下に行きますよ。」

そう言われると超時はハッと我に返り、よっこらせと立ち上がると再び彼女に着いていった。

廊下を歩いている途中で彼女にこの幻想郷にどうやって来たかということと、その戻り方をパチュリーという人が知っているかもしれないということを話した。(無論先程の部屋の一件は触れなかった)

それを聞くと咲夜は、顔を少し曇らせ同情の念を出しつつ、

「それはそれは、大変でしたね・・・。どうりでここ最近お嬢様のご様子が違ったわけです。」

「その、さっきからお嬢様って一体・・・?」

「あぁ、まだ貴方にお嬢様のことを話していなかったわね。お嬢様、レミリア・スカーレット様は人間ではないの。貴方も見たでしょう?お嬢様の背に生えた蝙蝠の翼を。お嬢様は吸血鬼なのよ。世間からは『永遠に紅い幼き月』だとか、『紅い悪魔』とか呼ばれているわ。実際500年も生きてらっしゃるからそう呼ばれるのも頷けるわ。」

(500年も生きててあんなに小さいのか・・・?)

そんなことを超時が考えていると、咲夜が思い出したように、

「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。・・・私は十六夜咲夜。この紅魔館の主、レミリアお嬢様に仕えるメイドで、その長を務めているわ。まぁ、他のメイドたちは皆妖精で、ほとんど使い物にならないんだけれど。・・・さっきはいきなり攻撃してしまって悪かったわ。いきなり私のクローゼットから飛び出て来るんですもの、流石の私も肝を冷やしたわ。・・・・・ところで、貴方は?」

反省している咲夜からそう言われると超時も自己紹介をしながら二人は図書館に向かって歩いていった。

 図書館は地下にあり、二人は地下の廊下をしばらく行くと今まで見てきたドアとは一風変わった扉が見え、咲夜はその扉の前で立ち止まり、

「ここが大図書館となります。中は少し暗いので足元に気をつけてくださいね。この大図書館を管理している人はパチュリー・ノーレッジという御方で悪い人ではないわ。」

そう言うと彼女は扉を押し、その扉はギギィと音を立てて開いた。





第一章 「幻想郷へようこそ」     

@ 始まった運命







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